それは宇宙に関する番組でした。
その業界では、惑星の発見ラッシュと言う時期があったそうです。
実は、惑星自体は観測されていたのですが、権威達の固定観念によりそれを惑星と認めずそのままにしていたようです。
しかし研究が進み、惑星と認めざるを得ない状況になったそうです。
それにより今まで観測されていた惑星が惑星と認められ発見ラッシュという状況が起きたそうです。
その業界の進歩を阻害していたのは、権威と呼ばれる人達の固定観念でした。
それと同じ状況が我々の業界にも起きています。
「アイシング」
今から10数年前、当時私が学生だった頃、2年生の生理学の範囲で既にアイシングが無意味であることに気が付きました。
当時の講師である準教授に確認したところ、「確かにその通りです。しかし、業界ではRICEが主流です。どこかに勤務中はそれに従うのが無難でしょう。そして、開業した時は自分の好きなようにやればよい。」そう言われました。
生理学の範疇でもアイシングが無意味であると言う結論に辿り着けますが、生化学まで学ぶとより具体的に説明することができます。
少し長くなりますが、説明していきましょう。
まずは熱感です。この炎症時の熱感は一体どこから来ているのでしょうか。
人間の体は、有機化合物の塊です。
生体内で何か作用が起きるときはそこには必ず化学反応が関係してきます。
では炎症部位の熱感、これを引き起こす化合物は何でしょうか。
おそらくほとんどの方が説明できないでしょう。
なぜならないから(そのようなタンパク分子は現在同定されてないから)です。
ではその熱感はどこから来ているのでしょうか。
考えられるのはプロスタグランジンによる温熱中枢への感作でしょうか。
ここで問題になって来るのは、その感作により、熱そのものを作り出している部位、または物質は何かということです。
生体内で熱を作ることを産熱といいます。
産熱には、
基礎代謝
筋肉運動
筋緊張
ふるえ産熱
非ふるえ産熱
ホルモン作用
放熱防止
特異動的作用
があります。
これらはどれも生理学の範囲なのですが、この中の一体どれが炎症時の熱感になるのでしょうか。
生化学まで学ぶとサーモゲニンによる脱共役を指摘する方もいるかも知れませんが、これは褐色細胞で多く見られるタンパク質であり、仮に炎症に関係したとしてもアイシングにより酸素供給量が減ればプロトンの濃度勾配が作れず脱共役も減ると考えられます。
以上から考えられる熱感は、血管損傷による血液の貯溜が原因と考えます。
冷え性が良い例で、血行が良い手は温かく、血行が悪い手は冷たくなります。
それと同じです。
そして、炎症時の温度なのですが、血液を介して循環して来た温度はそれ自体が熱源ではないので、血液貯溜によりどれだけ熱が集まろうとも温度は上がらないでしょう。
つまり、タンパク変性を起こす温度には到底及ばないことになります。
次に、その熱が大事な理由を説明して行きます。
生体内では、様々な化学反応が起きて成り立っているのですが、この反応には酵素が必要になります。
実験室でやると一週間かかる反応が、生体内では酵素の力を借りて一瞬で出来るのです。
そして、酵素には最適温度というものがあります。
37〜40℃です。
この熱により、酵素が働き化学反応がスムーズに起きることで治癒が進んで行きます。
次に、アイシングによる血管の収縮問題に移ります。
損傷による興奮性の血管収縮によってある程度は血管が収縮します。
無駄な血液の消失を防ぐためです。
そこにさらにアイシングで血管を収縮させることは、回復を遅らせることになります。
アイシングによる交感神経優位が前毛細血管括約筋をより収縮させ、組織への酸素供給量が減ると、膜間腔とマトリックスの間でプロトンの濃度勾配が作れなくなり、それによりATPが作れなくなります。(ここの細かい説明は生化学の電子伝達系を参照してください。)
ATPが枯渇すれば細胞分裂時の微小管上のモータータンパクが動かなくなり、その段階で細胞分裂は止まります。
治癒は全て細胞分裂によって行われます。
これが、アイシングが良くない理由になります。
ちなみに、アイシングには神経の伝達速度を遅らせるという機能がありますが、あくまでも脳が受容する速度が遅くなってるだけで、治癒には何の関係もありません。
痛みが麻痺して、一時的に楽になったからといって上記の理由で細胞分裂が起きてなければ治癒にはなりません。
ただの現場保存でしかないでしょう。
一般人なら関係ありませんが、一日でも早く現場復帰を考えるアスリートにとってアイシングは足枷でしかないのです。
おまけ
医学は常に進歩してます。
これから先、炎症時の熱タンパク分子が発見され同定されるかも知れません。
その時はまた考えを改めねばなりませんが、現状の教科書・参考書を読む限りでは、これがリアルだと思います。