2017/11/30

痛みの機序ver2.0

炎症によって細胞膜から切り出された不飽和脂肪酸のアラキドン酸が、プロスダグランジン合成酵素(cox)によってプロスダグランジンE2になります。
そのプロスダグランジンE2は、自由神経終末上にあるプロスダグランジンE2受容体に結合してホルモン感受性リン酸化酵素を活性化します。
このリン酸化酵素がカプサイシン受容体をリン酸化してナトリウムイオンが流入。
自由神経終末の細胞膜(-70mV)に刺激が加わると細胞膜が興奮し、ナトリウムイオンの透過性は2000倍近くに高まります。
ナトリウムイオンの細胞内流入により膜電位が脱分極し局所電位が起きます。
脱分極が閾値を越えると活動電位となります。
軸索を伝わって神経繊維のシナプス終末に到達した活動電位が引き金となって、シナプス終末からグルタミン酸が放出されます。
グルタミン酸は拡散で幅20〜50nmのシナプス間隙を移動。
脊髄後角のニューロン上のグルタミン酸受容体と結合して、受容体チャネルが開き、細胞外からナトリウムイオンやカルシウムイオンがニューロン内に流入し、内向きの電流が流れ、シナプス後電位が発生します。
ただし、グルタミン酸受容体のシナプス後電位は小さく、それ自身で自己増幅するほど興奮しません。
そのため、シナプス後ニューロンは細胞体と樹状突起上に、感覚受容器からの感覚神経と多くのシナプスを形成しています。
この局所的な膜電位の脱分極の総和が軸索にあるイオンチャネルを開く大きさに達すると活動電位が発生します。
グルタミン酸受容体にはAMPA受容体とNMDA受容体があり、通常はグルタミン酸の放出によりAMPA受容体が活性化され一方向に情報が伝達され終了します。
しかし、炎症や神経損傷などにより持続的に侵害情報が送られると、AMPA受容体だけでなくNMDA受容体も活性化します。
樹状突起の小さな突起スパインにあるNMDA受容体からカルシウムイオンが流入すると、カルシウム依存性リン酸化酵素が活性化され、2つに折れ曲がった状態から直線状になりNMDA受容体の方に移動しスパインが大きくなります。
スパインが大きくなり、シナプス結合の数が増えることで膜電位の脱分極の総和が増え軸索にあるイオンチャネルを開く大きさの活動電位が発生します。
そして脊髄を上行し、体性感覚野に痛みの情報が伝わるのです。
また、リン酸化によるタンパク分子のスイッチは分や時間単位で行われるのですが、侵害情報が絶えず脊髄後角に伝わるとNMDA受容体のリン酸化は一週間も持続します。
これが長引く痛みに関係してくるのです。