2018/02/16

ケトン体

グルコースの不足によりオキサロ酢酸が減り、クエン酸回路が回らなくなると、脂肪酸のβ酸化で生じたアセチルCoAはケトン体の合成に入ります。
ケトン体には
アセト酢酸
3-ヒドロキシ酪酸
アセトン
の3つがあります。

合成過程は以下になります。
グルコース不足下で増え過ぎたアセチルCoAは、チオラーゼとアセチルCoAによりアセトアセチルCoAになります。

アセトアセチルCoAは、HMG-CoA合成酵素とアセチルCoAとH2Oにより3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA(HMG-CoA)になります。

3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAは、HMG-CoAリアーゼによりアセト酢酸になります。

アセト酢酸は、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素とNADH2により3-ヒドロキシ酪酸になります。

また、アセト酢酸は、非酵素的反応により、H+が付きCO2が抜けアセトンになります。

アセト酢酸と3-ヒドロキシ酪酸は、心臓、骨格筋、脳、腎臓などに移動し、ミトコンドリアのマトリックス内で再びアセチルCoAに変えられてエネルギーとして利用されます。
アセトンは呼気や尿中に排泄され、体内では利用されません。

これらケトン体は、HMG-CoA合成酵素が肝細胞のミトコンドリアにしか発現してないので肝臓でしか作れません。

そして、移動したアセト酢酸や3-ヒドロキシ酪酸は、まず3-ヒドロキシ酪酸が3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素によりアセト酢酸になります。

アセト酢酸は、スクシニルCoA転移酵素とスクシニルCoAによりアセトアセチルCoAとコハク酸になります。

コハク酸はクエン酸回路でオキサロ酢酸になり不足分のオキサロ酢酸を補い、アセトアセチルCoAは、チオラーゼとCoA-SH(補酵素A)により2つのアセチルCoAとなりクエン酸回路へ入りエネルギーとして利用されます。

スクシニルCoA転移酵素は肝臓では発現してないので、肝臓はケトン体の自家消費が出来ません。

以上がケトン体の合成過程にまります。
ケトン体のメリットはコハク酸からオキサロ酢酸を作れることです。
グルコース不足下で増え過ぎたアセチルCoAは肝臓でケトン体にされ、戻って来ます。
それにより、オキサロ酢酸が作られアセチルCoAと合わさりクエン酸回路が回り始めるからです。

グルコース不足下では、糖新生系だけでアセチルCoAが増え過ぎることはないでしょうから、ケトン体は、中性り脂肪ありきの話と言えるでしょう。
ケトン体を作るにはアセチルCoAが必要になります。
アセチルCoAが増えるためにはβ酸化が必要で、β酸化は脂肪酸の分解の反応系だからです。

よって、反応の順番としては、乳酸とグリセロールによる糖新生→脂肪酸によるケトン体→アミノ酸による糖新生の順番とも言えるでしょう。






2018/02/12

β酸化

食事をして4〜5時間もすると、肝臓のグリコーゲンの分解による血中へのグルコース供給も減り、それに伴い各組織でトリグリセリドの加水分解が始まります。
脂肪組織で生じた脂肪酸はβ酸化によりエネルギーとして利用されます。

β酸化はミトコンドリアのマトリックスで行われるため、マトリックス内に入る必要があります。
まず、脂肪酸はミトコンドリア外膜にあるアシルCoA合成酵素によってアシルCoAになります。
アシルCoAは外膜を通過して膜間腔に入ります。
炭素数が11より短い場合はアシルCoAは内膜も通過出来るのですが、炭素数が11以上になると内膜を通過出来ないので、アシルCoAは内膜にあるカルニチンアシル基転移酵素Ⅰによりカルニチンと反応しアシルカルニチンとなります。
アシルカルニチンは、内膜にあるカルニチン-アシルカルニチントランスロカーゼにより、カルニチンと入れ替わりに内膜を通過してマトリックス内に入ります。
次に、アシルカルニチンは内膜のカルニチンアシル基転移酵素ⅡによってアシルCoAになり、β酸化の反応が始まります。

β酸化は以下の4段階の反応からなります。
アシルCoA→
エイノルCoA→
ヒドロキシアシルCoA→
オキソアシルCoA→
アセチルCoA+アシルCoA

まず、アシルCoAは、アシルCoAデヒドロゲナーゼ(脱水素酵素)とFADによりエイノルCoAとなります。

エイノルCoAは、エイノルCoAヒドラターゼとH2OによりヒドロキシアシルCoAになります。

ヒドロキシアシルCoAは、ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼとNADにより3-オキソアシルCoAとなります。

オキソアシルCoAは、アセチルCoAアシル基転移酵素(チオラーゼ)とCoA-SH(補酵素A)により、アセチルCoAと炭素数が2炭素分短くなったアシルCoAになります。

偶数鎖の場合は、これを繰り返し全てアセチルCoAになりクエン酸回路に入ります。
奇数鎖の場合は、最後、アシルCoAが炭素数3つのプロピオニルCoAとなります。
プロピオニルCoAはメチルマロニルCoAを経てスクシニルCoAになりクエン酸回路に入ります。

また、不飽和脂肪酸のβ酸化は、途中で不飽和部分が処理されます。
β-γ間にニ重結合があるエイノルCoAは、イソメラーゼにより二重結合の位置を移されα-β間に二重結合がある通常のエイノルCoAにされます。
また、γ-δ間に二重結合があるジェイノルCoAが生じたときは、2,4-ジェイノルCoA還元酵素によりβ-γ間にニ重結合があるエイノルCoAにされ、次にイソメラーゼで通常のエイノルCoAにされβ酸化を受けます。

パルミチン酸がβ酸化されると147モルのATPが作られます。
炭素数16個なので、アセチルCoAが8モル、FADHが7モル、NADHが7モル生じます。
電子伝達系では、1FADH(QH2)で6H+、1NADHで15H+の濃度勾配が生じます。
アセチルCoA1分子で、1FADH、3NADH、1ATP生じるので、Hの濃度勾配から生じるATPも合わせると、

{(6+45-2m)/8}×3+1=m
m=11.5
11.5×8=92ATPが生じます。

7FADHと7NADHから147H+の濃度勾配が生じるので、147/8×3=55ATPが生じます。

92+55=147ATP
となります。

ちなみに、医学書院の生化学の教科書では、パルミチン酸のβ酸化で生じるATPは106で、脂肪酸は最初に2ATP必要なので、正味104ATPとなってます。





2018/02/11

糖新生

人間は、血糖値が50〜60mg/dl以下になると低血糖になり脳に影響が出てしまいます。
また、活動中にも関わらず10時間くらい摂食しないと、肝臓のグリコーゲンの分解も尽きてしまいます。
そうならないように、グルカゴンの分泌をシグナルにグルコース以外の物質からグルコースを作るための仕組みが糖新生経路です。
糖新生は肝臓、腎臓、膵臓、小腸で行われます。
糖新生のおもな原料は、乳酸、グリセロール、アミノ酸です。
以下、その生成過程を見て行きましょう。


乳酸は、肝臓内のグリコーゲンが枯渇してなくても運動の初期などでグルコースが必要になれば糖新生系に入ります。
乳酸からピルビン酸になるには乳酸脱水素酵素とNAD+が必要になります。
乳酸(C3H6O3)が酸化されピルビン酸(C3H4O3)になります。
C3H6O3+NAD→C3H4O3+NADH2

その後、ピルビン酸からホスホエノールピルビン酸にはエネルギー差が大きくて直接戻れないので、リンゴ酸-ホスホエノールピルビン酸シャトルによって迂回して逆走します。
ピルビン酸はまずミトコンドリア内に移動しオキサロ酢酸となります。
ピルビン酸(C3H4O3)からオキサロ酢酸(C4H4O5)になるには、ピルビン酸カルボキシラーゼとATPとCO2が必要になります。
C3H4O3+ATP+CO2→C4H4O5+ADP+H3PO4

その後、オキサロ酢酸はミトコンドリアの膜を通過出来ないので一旦リンゴ酸になります。
オキサロ酢酸(C4H4O5)からリンゴ酸(C4H6O6)になるには、リンゴ酸デヒドロゲナーゼとNADH2が必要になります。
C4H4O5+NADH2→C4H6O6+NAD+

この後、ミトコンドリアの膜を通過しリンゴ酸からオキサロ酢酸に戻ります。
この際もリンゴ酸デヒドロゲナーゼによってオキサロ酢酸に戻ります。
分子式は上記逆走。

細胞質内に出たオキサロ酢酸は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼの作用を受けてホスホエノールピルビン酸になります。
オキサロ酢酸(C4H4O5)からホスホエノールピルビン酸(C3H5O6P)になるには、ホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼとGTPが必要になります。
この際GTPが加水分解されリン酸基がつき、GDPとCO2が生成されます。
C4H4O5+H3PO4→C3H5O6P+CO2+H2O

ホスホエノールピルビン酸からは解糖系を逆走して行きますが、2箇所だけ解糖系とは違う酵素が必要になります。

まず、フルクトース1,6-ビスリン酸からフルクトース6-リン酸の生成にはフルクトース1,6-ビスホスファターゼとH2Oが必要になります。
フルクトース1,6-ビスリン酸(C6H14O12P2)はフルクトース1,6-ビスホスファターゼにより脱リン酸化されフルクトース6-リン酸(C6H13O9P)になります。
C6H14O12P2+H2O→C6H13O9P+H3PO4

最後は、グルコース6-リン酸からグルコースの生成になりますが、小胞体内のグルコース6-ホスファターゼが酵素として働き、脱リン酸化されます。
このグルコース6-ホスファターゼは肝臓と腎臓にしか発現していません。
C6H13O9P+H2O→C6H12O6+H3PO4

乳酸さんから糖新生の流れは以上になりますが、筋肉内の解糖系でピルビン酸からアラニンになった場合も同様です。
アラニンは、筋肉から肝臓に運ばれてアラニントランスアミナーゼによりピルビン酸に戻され糖新生系路に入ります。


一方、アミノ酸は肝臓に貯蔵されていたグリコーゲンがなくなると糖新生が始まります。
ここで使われるアミノ酸は糖原性アミノ酸と呼ばれ、糖原性アミノ酸はTCAサイクルでオキサロ酢酸を経てホスホエノールピルビン酸になり糖新生系路に入ります。


最後に、グリセロールもアミノ酸と同様に肝臓に貯蔵されていたグリコーゲンがなくなると糖新生が始まります。
中性脂肪が加水分解され生じたグリセロールは、脂肪組織内にはグリセロール3-リン酸にするための酵素グリセロールキナーゼがないため血中に放出されて肝臓に入ります。
グリセロール(C3H8O3)は細胞質内でグリセロールキナーゼによりリン酸化されグリセロール3-リン酸(C3H9O6P)となります。
C3H8O3+H3PO4→C3H9O6P+H2O

グリセロール3-リン酸は細胞質内でグリセロール3-リン酸デヒドロゲナーゼにより還元されジヒドロキシアセトンリン酸(C3H7O6P)になり、解糖系を逆走して行きます。
C3H9O6P+NAD→C3H7O6P+NADH2


これらの糖新生により再生されたグルコースは、血流に乗ってグルコースの欠乏した組織に運ばれて行きます。


<補足>
インスリンは、ホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼと、グルコース6-ホスファターゼの遺伝子のmRNAへの転写を抑制することで、糖新生を抑制します。





2018/02/01

ATP合成酵素とATP生成量

ATP合成酵素はミトコンドリア内膜に埋め込まれたローター部分(Fo)と、bサブユニットに固定されマトリックスに突出したATP合成部分(F1)からなります。
ローターの脇にaサブユニットがあり、ここから濃度勾配を利用してH+が流入します。
その勢いでローターが回転し、ATP合成部位は変形を繰り返しATPが生成されます。

まず、ローターは8〜14個のcサブユニットという円筒形のタンパク質が束ねられて出来ています。
cサブユニットの中央付近にあるアスパラギン酸側鎖に膜間腔から、aサブユニットのアルギニン側鎖を通じてH+が結合し、アスパラギン酸は-荷電を失い中性になります。
その時、このcサブユニットの後方のcサブユニットはまだH+を結合しているのですが、H+を受け取る位置に近付くと持っていたH+を解離し、遊離したH+はマトリックスに放出されます。
H+を解離したcサブユニットは改めてaサブユニットからH+を受け取り中性となり、脂質層側に回転します。
これを、cサブユニットの数だけ繰り返すことで1回転します。
cサブユニットの数は、人は8個と推定されていて、ローター1回転で3分子のATPが生成されます。
また、ローター部位と合成部位は普段はそれぞれ逆方向に回転をしています。
H+の濃度勾配がスイッチとなり、ローターによって強制的に普段とは逆回転にされることでATPが生成されます。
その分、濃度勾配が少ないときは合成部位はATPをADPとPiにし、H+を膜間腔に能動輸送しています。

ATP合成部位では、軸の回転によるタンパク質の変形を利用してATPが生成されます。
まず、ATP合成部位の触媒部位が開いてADPとPiが入り、軸の回転によりタンパク質が変形してADPとPiが閉じ込められます。
そして、タンパク質がさらに変形してコンパクトになり脱水結合してATPが生成され、その後、タンパク質の形が戻りATPがマトリックスに放出されます。
そして、ATPは細胞質へと輸送されて行きます。

1分子のグルコースから生成されるATP量は器官によって変わって来ます。
解糖系で生成されたNADHは、
グリセロールリン酸シャトル
(脳、筋肉)
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル
(心筋、肝臓、腎蔵)
によって電子伝達系に入ります。
酸化されたNADは解糖系に補充されます。
また、ATPを作る上での原料をミトコンドリア内に取り込む時や、生成されたATP細胞質へ輸送すると時にもH+が使われます。
まず、グリセロールリン酸シャトル系では、
細胞質の基質で出来るATPは2ATP。 
ミトコンドリア内の基質で出来るATPは2ATP。
グリセロールリン酸シャトル系で生じる濃度勾配は144H。
取り込み時に-2H。
ピルビン酸取り込み時に-2H。
ATP輸送1分子に対し-2Hなので-2X
ローターにおいて8Hの流入で3ATPの生成。
よって、ミトコンドリア内で生成されるATPをXとすると、
X={(144−2−2−2X)/8}×3+2
X=31.1
31.1+2(細胞質基質分)=33.1なので33ATP。

これがリンゴ酸-アスパラギン酸シャトルだと、
細胞質の基質で出来るATPは2ATP。
ミトコンドリア内の基質で出来るATPは2ATP。
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルで生じる濃度勾配は162H。
取り込み時に-4H。
ピルビン酸取り込み時に-2H。
ATP輸送1分子に対し-2Hなので-2X
ローターにおいて8Hの流入で3ATPの生成。
よって、
X={(162−4−2−2X)/8}×3+2
X=34.6
34.6+2=36.6なので36ATPとなります。

教科書によってこのATPの数が違うのは、取り込みや輸送の際の消費H+量の考え方の違いによるものです。

ちなみに海外の生化学参考書では、
NADHから2.5ATP
FADH2から1.5ATP
解糖系のグリセロールリン酸シャトルにおいては
NADHから1.5ATP
という計算により、
グリセロールリン酸シャトル系は30ATP
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル系は32ATP
となっています。
だいぶ違いがありますね。

私も生理学では、1分子のグルコースから生成されるのは38ATPと習いましたが、さすが生化学となるともっと奥が深くなるようです。
とりあえず、一般的には

グリセロールリン酸シャトル系は30ATP
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル系は32ATP

で覚えておいた方が良いかと思いますが、個人的にはNADHが何ATPという計算方法ではなく、H+の濃度勾配から計算する、

グリセロールリン酸シャトル系は33ATP
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル系は36ATP

の方が好きだったりします。