2026/04/23

インスリン抵抗性と分泌量低下

インスリン抵抗性


本来は、インスリンがインスリン受容体に結合→

インスリン受容体のチロシンキナーゼ活性化→

インスリン受容体チロシンキナーゼがIRS-1のチロシン残基をリン酸化→

PI3K(ホスホイノシトール3-キナーゼ)からAktが活性化→

GLUT4の細胞膜移行を誘導→

グルコースの取り込み


ところが、細胞内に過剰な脂肪酸が入ると、代謝されずにジアシルグリセロール(DAG)が蓄積→

DAGがプロテインキナーゼ(PKC)を活性化→

すぐ隣にあるIRS-1のセリン残基をリン酸化→

IRS-1の構造変化によりチロシン残基のリン酸化が阻害→

PI3Kの結合が遮断→

GLUT4の細胞膜移行が起こらず→

グルコースの取り込み低下


これをマクロ視点で言語化したものがインスリン抵抗性




インスリンの分泌量低下


グルコースの過剰代謝によりミトコンドリア内で活性酸素(ROS)が発生し、β細胞特有の抗酸化酵素活性が低いことも相まって、細胞障害が進みます。


本来、膵β細胞の核内にPDX-1、NeuroD1、MafAといった転写因子群がプロモーター上で複合体を形成することで、初めて強力なインスリンの転写が維持されます。


ところが、転写因子であるMafaが活性酸素(ROS)によるユビキチン-プロテアソーム系で分解されたり、同じく活性酸素(ROS)によりp38MAPKが活性化しPDX-1がリン酸化しすることで核外移行シグナルが活性化し核内から強制退去させられるため、インスリン遺伝子の転写が開始できなくなります。

これによりインスリンの分泌量が減るのです。


要は、組織の化学的環境の変化が起きているだけ。

それをマクロ視点で言語化したものが膵臓疲労

2025/04/02

運動と免疫の補足(CCR7/CCL21への移動機構)

今回はInstagramに上げた内容の補足として、リンパ球のリンパ節への移動を分子レベルで見て行こう。


まず、Instagramに上げた内容はこうだ。




『これまで、軽い運動は免疫を活性化し、高強度の運動は免疫を抑制すると解釈してました。


ところが先日、


「高強度の運動ががんの発生率を減少させ、再発のリスクを低下させ、播種性疾患の患者により良い品質で長寿を確保することを示している」


とする論文を目にしました。

気になったので読んでみたのですが、突っ込みどころの多いエビデンスレベルの低い論文でした。


そこで改めて、運動とそれによる免疫、今回はNK細胞に焦点を当てて生化学的なプロセスを調べてみました。


難しいので先に


「まとめ」

散歩などの軽い運動でNK細胞の分化を促しつつ、日々ストレスに晒されている体をリラックスさせ副交感神経を優位にすることが、免疫にとっては必要なことと言える。


以下、詳細。


散歩などの軽い運動時には、ノルアドレナリンの作用によってNK細胞の分化が促進される。

(ノルアド→α受容体Gq共役型→PLC→IP3→CaMKⅡa→転写因子NFIL-3→NK細胞の分化)


ところが、高強度・長時間の運動時には循環アドレナリンの作用によってβ₂アドレナリン受容体が活性化。

これにより、cAMP-PKA経路が活性化されNK細胞にある接着分子LFA-1やVLA-4などの発現が低下し、NK細胞が 血管壁に留まれなくなり、血流へと流れ出る。


実は、ここで解釈が分かれる。


免疫が活性化するとしているグループは、この血流への遊離によってNK細胞が全身をパトロールし、がん細胞や感染細胞を攻撃するとしているのだ。


言いたいことは分かる。

しかし、実際に組織のがん細胞などを攻撃しに行く場合、血管外に出る必要がある。

NK細胞が血管外に出るには、血管壁に接着しないといけないのでLFA-1の活性化が必要になる。


通常のリンパ球にはCCR7というケモカイン受容体が発現しており、これがβ₂アドレナリン受容体とクロストークすることで血管壁に接着しやすくなる。

そして、そのままCCR7とCCL19/CCL21との相互作用でリンパ球をリンパ節内まで移動させる。


しかし、成熟NK細胞にはCCR7がほとんど発現していないため、β₂アドレナリン受容体の活性化によりcAMP-PKA経路が活性化し、それによりLFA-1が抑制され細胞接着ができなくなる。


よって、高強度・長時間の運動時はNK細胞は循環アドレナリンの作用によって血管壁に接着できず、結果血管外へ遊走できない。

血中を流れることと、組織へ遊走しがん細胞を攻撃しに行くことは別の話であり、これはがんに対しては免疫活動が抑制されているといえる。


ですので、高強度の運動ではなくリラックスすることで、交感神経から副交感神経へと切り替わり循環アドレナリンの量が減り、cAMP-PKA経路が抑制され、LFA-1が働き血管壁に接着・細胞外遊走し、組織のがん細胞を攻撃できるようになる。』

 


以上がInstagramに投稿した内容である。

では早速本題の、リンパ球のリンパ節への大まかな移動を見て行こう。



リンパ球(T細胞・B細胞・一部のNK細胞)が末梢血からリンパ節へ移動する際、CCR7は特定のケモカイ(CCL19・CCL21)と相互作用し、リンパ節へのホーミングを誘導する役割を担っている。

リンパ球は、通常血中から高内皮細静脈 (HEV)を通りリンパ節へ戻る。

HEVはリンパ節内の特殊な血管であり、通常の毛細血管と異なり、内皮細胞が立体的で膨らんでいる。

HEVの内皮細胞は CCL19・CCL21というケモカインを発現しており、これがCCR7を引き寄せ、同じく内皮細胞に発現するICAM-1・ICAM-2(細胞間接着分子)とリンパ球のLFA-1(リンパ球機能関連抗原-1)が結合することで強固に接着する。

この時、リンパ球はCCL19・CCL21の濃度勾配を感知し、HEVへ向かって遊走する。

そして、リンパ球は血管内皮細胞の間をすり抜けてリンパ節内へ移動する。

さらに、CCR7が持続的に活性化されることで、リンパ球はリンパ節のT細胞ゾーンへと誘導される。 

誘導が成立するのは、T細胞ゾーンの網状細胞(FRC)がCCL19・CCL21を分泌しており濃度が濃いためである。



次に、CCR7のCCL21への分子的な移動機構はこうだ。


CCR7(Gタンパク質共役受容体GPCR)がCCL21を感知すると、細胞内のGiタンパク質が活性化する。

活性化したGiタンパク質がアデニル酸シクラーゼを抑制し、細胞内cAMP濃度が低下する。

それにより、PI3KやRhoファミリーGTPaseの活性化が起こる。

PI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)が活性化されると、PIP2(ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸)がPIP3(ホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸)へ変換される。

PIP3は細胞膜上で非対称に分布し、濃度勾配の高い方向(リーディングエッジ)に集積する。

結果として、細胞の前方(リーディングエッジ)と後方(テールエンド)が明確に分かれ極性化する。

リーディングエッジでは、Rac1が活性化しアクチンが重合し細胞膜を押し出し構造が変化する。

テールエンドでは、RhoAが活性化しアクチンが脱重合し、収縮して前進を促す。

それにより、CCR7はCCL21へと移動する。


2024/09/28

指圧による痛みは筋肉を弛緩させるのか?

「筋肉の悪循環仮説は最新のサイエンスから否定されている」という投稿に、気になる事が書かれていました。











気になる事とは、

「指圧や痛みを誘発する他の刺激は、刺激された筋肉の緊張を低下させるだろう。」

という内容です。
この場合、国語的には、
指圧は、刺激された筋肉の緊張を低下させるだろう。」
という構文と、
「痛みを誘発する他の刺激は、刺激された筋肉の緊張を低下させるだろう。」
という構文に分けることができます。

上の構文は問題ないのですが、下の構文が本当だとすると、痛い指圧も筋緊張を低下させるといえます。
これだと自分の手技や理論を改めなければならないので調べてみました。



まず、主が参考にしてる論文を読んでみました。
確かに書いてありました。









参照元の論文があったのでこちらも読んでみました。

73の論文▼

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18403422/

全文▼

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2536575/


74の論文▼

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23417691/

全文▼

https://physoc.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1113/expphysiol.2012.071670


これらの論文は、筋肉が硬くなる→痛み→その痛みが原因で更に硬くなるという悪循環理論の根拠がないことなどを述べているのですが、ここでの痛みがどの受容体による発火かまでは気にしてないようです。


まず、高張性生理食塩水を使って痛みを誘発してるので、これはC線維(Ⅳ群)の酸感受性イオンチャネルによる発火となります。

それに対してⅠa群、Ⅱ群の求心性神経の発火がないと報告しているので、これは分かりやすく書くと、


「C線維の酸感受性イオンチャネルに発する痛みでは、それによる反射的な筋肉の収縮が起きない」


と述べているだけです。

そもそも、C線維内にはTRPA1やTRPV1もありますし、指圧が強過ぎて痛い場合に反応するのはAδ線維です。

これらの論文ではAδ線維に関しては言及してないので自分の手技には問題なさそうです。



75の論文▼

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1863921/









「主動筋の活動は、例えこれが筋肉自体の痛みによるものでなくても、痛みによって減少する。」

おそらくここを読み違えたのかなと思うのですが、痛みによる活動低下弛緩はまた別のことなので、この論文も問題なさそうです。




以上、これらを統合すると「指圧や痛みを誘発する他の刺激は、刺激された筋肉の緊張を低下させるだろう」という主張は、そもそもの「受容体の違い」「読み間違い」によるものなので、


「痛い指圧が筋緊張を低下させるとは言えない


ということになります。

これで安心して自分の仕事ができそうです。

 




2023/03/10

ブラジキニンの初痛機序


血管内皮の破壊により、血漿タンパク質である血液凝固因子第Ⅻa因子(ハーゲマン因子)により血漿カリクレインが活性化される。


血漿カリクレインがキニノーゲンのペプチド結合を加水分解し、ブラジキニンとカリジンに分解する。

(ブラジキニンを生成する因子は血管修復に関わるので、ブラジキニンは血圧を低下させる作用がある。)


ブラジキニンはG蛋白共役型受容体であるブラジキニン受容体(B2R)の活性化によりPKCを活性化し、PKC が直接TRPV12つのセリン残基をリン酸化することでTRPV1の活性増強をもたらす。

また、TRPV1の活性化温度閾値を32度にまで低下させる。


さらに、ブラジキニンがキニナーゼIによって分解されたときに生成される des‐Arg9‐BK (DABK)が外傷等の刺激によって発現が誘導されるブラジキニン受容体(B1R) と結合する。

これにより、活性化されたB1Rは痛みの増強や炎症反応の維持などを引き起こす。


ここに、プロスタグランジンE2の作用も加わり痛みが増強する。