今回はInstagramに上げた内容の補足として、リンパ球のリンパ節への移動を分子レベルで見て行こう。
まず、Instagramに上げた内容はこうだ。
『これまで、軽い運動は免疫を活性化し、高強度の運動は免疫を抑制すると解釈してました。
ところが先日、
「高強度の運動ががんの発生率を減少させ、再発のリスクを低下させ、播種性疾患の患者により良い品質で長寿を確保することを示している」
とする論文を目にしました。
気になったので読んでみたのですが、突っ込みどころの多いエビデンスレベルの低い論文でした。
そこで改めて、運動とそれによる免疫、今回はNK細胞に焦点を当てて生化学的なプロセスを調べてみました。
難しいので先に
「まとめ」
散歩などの軽い運動でNK細胞の分化を促しつつ、日々ストレスに晒されている体をリラックスさせ副交感神経を優位にすることが、免疫にとっては必要なことと言える。
以下、詳細。
散歩などの軽い運動時には、ノルアドレナリンの作用によってNK細胞の分化が促進される。
(ノルアド→α受容体Gq共役型→PLC→IP3→CaMKⅡa→転写因子NFIL-3→NK細胞の分化)
ところが、高強度・長時間の運動時には循環アドレナリンの作用によってβ₂アドレナリン受容体が活性化。
これにより、cAMP-PKA経路が活性化されNK細胞にある接着分子LFA-1やVLA-4などの発現が低下し、NK細胞が 血管壁に留まれなくなり、血流へと流れ出る。
実は、ここで解釈が分かれる。
免疫が活性化するとしているグループは、この血流への遊離によってNK細胞が全身をパトロールし、がん細胞や感染細胞を攻撃するとしているのだ。
言いたいことは分かる。
しかし、実際に組織のがん細胞などを攻撃しに行く場合、血管外に出る必要がある。
NK細胞が血管外に出るには、血管壁に接着しないといけないのでLFA-1の活性化が必要になる。
通常のリンパ球にはCCR7というケモカイン受容体が発現しており、これがβ₂アドレナリン受容体とクロストークすることで血管壁に接着しやすくなる。
そして、そのままCCR7とCCL19/CCL21との相互作用でリンパ球をリンパ節内まで移動させる。
しかし、成熟NK細胞にはCCR7がほとんど発現していないため、β₂アドレナリン受容体の活性化によりcAMP-PKA経路が活性化し、それによりLFA-1が抑制され細胞接着ができなくなる。
よって、高強度・長時間の運動時はNK細胞は循環アドレナリンの作用によって血管壁に接着できず、結果血管外へ遊走できない。
血中を流れることと、組織へ遊走しがん細胞を攻撃しに行くことは別の話であり、これはがんに対しては免疫活動が抑制されているといえる。
ですので、高強度の運動ではなくリラックスすることで、交感神経から副交感神経へと切り替わり循環アドレナリンの量が減り、cAMP-PKA経路が抑制され、LFA-1が働き血管壁に接着・細胞外遊走し、組織のがん細胞を攻撃できるようになる。』
以上がInstagramに投稿した内容である。
では早速本題の、リンパ球のリンパ節への大まかな移動を見て行こう。
リンパ球(T細胞・B細胞・一部のNK細胞)が末梢血からリンパ節へ移動する際、CCR7は特定のケモカイ(CCL19・CCL21)と相互作用し、リンパ節へのホーミングを誘導する役割を担っている。
リンパ球は、通常血中から高内皮細静脈 (HEV)を通りリンパ節へ戻る。
HEVはリンパ節内の特殊な血管であり、通常の毛細血管と異なり、内皮細胞が立体的で膨らんでいる。
HEVの内皮細胞は CCL19・CCL21というケモカインを発現しており、これがCCR7を引き寄せ、同じく内皮細胞に発現するICAM-1・ICAM-2(細胞間接着分子)とリンパ球のLFA-1(リンパ球機能関連抗原-1)が結合することで強固に接着する。
この時、リンパ球はCCL19・CCL21の濃度勾配を感知し、HEVへ向かって遊走する。
そして、リンパ球は血管内皮細胞の間をすり抜けてリンパ節内へ移動する。
さらに、CCR7が持続的に活性化されることで、リンパ球はリンパ節のT細胞ゾーンへと誘導される。
誘導が成立するのは、T細胞ゾーンの網状細胞(FRC)がCCL19・CCL21を分泌しており濃度が濃いためである。
次に、CCR7のCCL21への分子的な移動機構はこうだ。
CCR7(Gタンパク質共役受容体GPCR)がCCL21を感知すると、細胞内のGiタンパク質が活性化する。
活性化したGiタンパク質がアデニル酸シクラーゼを抑制し、細胞内cAMP濃度が低下する。
それにより、PI3KやRhoファミリーGTPaseの活性化が起こる。
PI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)が活性化されると、PIP2(ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸)がPIP3(ホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸)へ変換される。
PIP3は細胞膜上で非対称に分布し、濃度勾配の高い方向(リーディングエッジ)に集積する。
結果として、細胞の前方(リーディングエッジ)と後方(テールエンド)が明確に分かれ極性化する。
リーディングエッジでは、Rac1が活性化しアクチンが重合し細胞膜を押し出し構造が変化する。
テールエンドでは、RhoAが活性化しアクチンが脱重合し、収集して前進を促す。
それにより、CCR7はCCL21へと移動する。