2025/04/02

運動と免疫の補足(CCR7/CCL21への移動機構)

今回はInstagramに上げた内容の補足として、リンパ球のリンパ節への移動を分子レベルで見て行こう。


まず、Instagramに上げた内容はこうだ。




『これまで、軽い運動は免疫を活性化し、高強度の運動は免疫を抑制すると解釈してました。


ところが先日、


「高強度の運動ががんの発生率を減少させ、再発のリスクを低下させ、播種性疾患の患者により良い品質で長寿を確保することを示している」


とする論文を目にしました。

気になったので読んでみたのですが、突っ込みどころの多いエビデンスレベルの低い論文でした。


そこで改めて、運動とそれによる免疫、今回はNK細胞に焦点を当てて生化学的なプロセスを調べてみました。


難しいので先に


「まとめ」

散歩などの軽い運動でNK細胞の分化を促しつつ、日々ストレスに晒されている体をリラックスさせ副交感神経を優位にすることが、免疫にとっては必要なことと言える。


以下、詳細。


散歩などの軽い運動時には、ノルアドレナリンの作用によってNK細胞の分化が促進される。

(ノルアド→α受容体Gq共役型→PLC→IP3→CaMKⅡa→転写因子NFIL-3→NK細胞の分化)


ところが、高強度・長時間の運動時には循環アドレナリンの作用によってβ₂アドレナリン受容体が活性化。

これにより、cAMP-PKA経路が活性化されNK細胞にある接着分子LFA-1やVLA-4などの発現が低下し、NK細胞が 血管壁に留まれなくなり、血流へと流れ出る。


実は、ここで解釈が分かれる。


免疫が活性化するとしているグループは、この血流への遊離によってNK細胞が全身をパトロールし、がん細胞や感染細胞を攻撃するとしているのだ。


言いたいことは分かる。

しかし、実際に組織のがん細胞などを攻撃しに行く場合、血管外に出る必要がある。

NK細胞が血管外に出るには、血管壁に接着しないといけないのでLFA-1の活性化が必要になる。


通常のリンパ球にはCCR7というケモカイン受容体が発現しており、これがβ₂アドレナリン受容体とクロストークすることで血管壁に接着しやすくなる。

そして、そのままCCR7とCCL19/CCL21との相互作用でリンパ球をリンパ節内まで移動させる。


しかし、成熟NK細胞にはCCR7がほとんど発現していないため、β₂アドレナリン受容体の活性化によりcAMP-PKA経路が活性化し、それによりLFA-1が抑制され細胞接着ができなくなる。


よって、高強度・長時間の運動時はNK細胞は循環アドレナリンの作用によって血管壁に接着できず、結果血管外へ遊走できない。

血中を流れることと、組織へ遊走しがん細胞を攻撃しに行くことは別の話であり、これはがんに対しては免疫活動が抑制されているといえる。


ですので、高強度の運動ではなくリラックスすることで、交感神経から副交感神経へと切り替わり循環アドレナリンの量が減り、cAMP-PKA経路が抑制され、LFA-1が働き血管壁に接着・細胞外遊走し、組織のがん細胞を攻撃できるようになる。』

 


以上がInstagramに投稿した内容である。

では早速本題の、リンパ球のリンパ節への大まかな移動を見て行こう。



リンパ球(T細胞・B細胞・一部のNK細胞)が末梢血からリンパ節へ移動する際、CCR7は特定のケモカイ(CCL19・CCL21)と相互作用し、リンパ節へのホーミングを誘導する役割を担っている。

リンパ球は、通常血中から高内皮細静脈 (HEV)を通りリンパ節へ戻る。

HEVはリンパ節内の特殊な血管であり、通常の毛細血管と異なり、内皮細胞が立体的で膨らんでいる。

HEVの内皮細胞は CCL19・CCL21というケモカインを発現しており、これがCCR7を引き寄せ、同じく内皮細胞に発現するICAM-1・ICAM-2(細胞間接着分子)とリンパ球のLFA-1(リンパ球機能関連抗原-1)が結合することで強固に接着する。

この時、リンパ球はCCL19・CCL21の濃度勾配を感知し、HEVへ向かって遊走する。

そして、リンパ球は血管内皮細胞の間をすり抜けてリンパ節内へ移動する。

さらに、CCR7が持続的に活性化されることで、リンパ球はリンパ節のT細胞ゾーンへと誘導される。 

誘導が成立するのは、T細胞ゾーンの網状細胞(FRC)がCCL19・CCL21を分泌しており濃度が濃いためである。



次に、CCR7のCCL21への分子的な移動機構はこうだ。


CCR7(Gタンパク質共役受容体GPCR)がCCL21を感知すると、細胞内のGiタンパク質が活性化する。

活性化したGiタンパク質がアデニル酸シクラーゼを抑制し、細胞内cAMP濃度が低下する。

それにより、PI3KやRhoファミリーGTPaseの活性化が起こる。

PI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)が活性化されると、PIP2(ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸)がPIP3(ホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸)へ変換される。

PIP3は細胞膜上で非対称に分布し、濃度勾配の高い方向(リーディングエッジ)に集積する。

結果として、細胞の前方(リーディングエッジ)と後方(テールエンド)が明確に分かれ極性化する。

リーディングエッジでは、Rac1が活性化しアクチンが重合し細胞膜を押し出し構造が変化する。

テールエンドでは、RhoAが活性化しアクチンが脱重合し、収集して前進を促す。

それにより、CCR7はCCL21へと移動する。


2024/09/28

指圧による痛みは筋肉を弛緩させるのか?

「筋肉の悪循環仮説は最新のサイエンスから否定されている」という投稿に、気になる事が書かれていました。











気になる事とは、

「指圧や痛みを誘発する他の刺激は、刺激された筋肉の緊張を低下させるだろう。」

という内容です。
この場合、国語的には、
指圧は、刺激された筋肉の緊張を低下させるだろう。」
という構文と、
「痛みを誘発する他の刺激は、刺激された筋肉の緊張を低下させるだろう。」
という構文に分けることができます。

上の構文は問題ないのですが、下の構文が本当だとすると、痛い指圧も筋緊張を低下させるといえます。
これだと自分の手技や理論を改めなければならないので調べてみました。



まず、主が参考にしてる論文を読んでみました。
確かに書いてありました。









参照元の論文があったのでこちらも読んでみました。

73の論文▼

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18403422/

全文▼

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2536575/


74の論文▼

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23417691/

全文▼

https://physoc.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1113/expphysiol.2012.071670


これらの論文は、筋肉が硬くなる→痛み→その痛みが原因で更に硬くなるという悪循環理論の根拠がないことなどを述べているのですが、ここでの痛みがどの受容体による発火かまでは気にしてないようです。


まず、高張性生理食塩水を使って痛みを誘発してるので、これはC線維(Ⅳ群)の酸感受性イオンチャネルによる発火となります。

それに対してⅠa群、Ⅱ群の求心性神経の発火がないと報告しているので、これは分かりやすく書くと、


「C線維の酸感受性イオンチャネルに発する痛みでは、それによる反射的な筋肉の収縮が起きない」


と述べているだけです。

そもそも、C線維内にはTRPA1やTRPV1もありますし、指圧が強過ぎて痛い場合に反応するのはAδ線維です。

これらの論文ではAδ線維に関しては言及してないので自分の手技には問題なさそうです。



75の論文▼

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1863921/









「主動筋の活動は、例えこれが筋肉自体の痛みによるものでなくても、痛みによって減少する。」

おそらくここを読み違えたのかなと思うのですが、痛みによる活動低下弛緩はまた別のことなので、この論文も問題なさそうです。




以上、これらを統合すると「指圧や痛みを誘発する他の刺激は、刺激された筋肉の緊張を低下させるだろう」という主張は、そもそもの「受容体の違い」「読み間違い」によるものなので、気にしないで良さそうです。


これで安心して自分の仕事ができそうです。

 




2023/03/10

ブラジキニンの初痛機序


血管内皮の破壊により、血漿タンパク質である血液凝固因子第Ⅻa因子(ハーゲマン因子)により血漿カリクレインが活性化される。


血漿カリクレインがキニノーゲンのペプチド結合を加水分解し、ブラジキニンとカリジンに分解する。

(ブラジキニンを生成する因子は血管修復に関わるので、ブラジキニンは血圧を低下させる作用がある。)


ブラジキニンはG蛋白共役型受容体であるブラジキニン受容体(B2R)の活性化によりPKCを活性化し、PKC が直接TRPV12つのセリン残基をリン酸化することでTRPV1の活性増強をもたらす。

また、TRPV1の活性化温度閾値を32度にまで低下させる。


さらに、ブラジキニンがキニナーゼIによって分解されたときに生成される des‐Arg9‐BK (DABK)が外傷等の刺激によって発現が誘導されるブラジキニン受容体(B1R) と結合する。

これにより、活性化されたB1Rは痛みの増強や炎症反応の維持などを引き起こす。


ここに、プロスタグランジンE2の作用も加わり痛みが増強する。

2022/03/09

ATPの必要量


モル質量

ATP   507.181 g/mol  


ギブズエネルギー

ATP  -50kJ mol-1   →   50000J 


1cal =  4.18605J


50000J ÷ 4.18J = 11961.7


ATP   11961.7cal   →  11.96kcal  →  12kcal/mol


2400(1565歳男女平均推奨kcal) ÷ 12kcal = 200


200 × 507g = 101400g → 100kg


毎日、約100kgATPが必要と考えられる。


ストライヤー内では2000kcal推奨の場合で計算しているため、ATP84.5kgが必要という数字になる。


これに対して保存できるATP量は250gとされているので、毎日1molATP400回はリサイクルされないといけない。

1molATPが、3分半に1回はリサイクルされないといけない計算になる。



また、別の意見もある。


脱共役の割合は60%とあるので、実際に必要なATP2400kcal40%にあたるとも考えられる。


そうすると、

2400kcal × 0.4 = 960kcal


960kcal ÷ 12kcal = 80


80 × 507g = 40560g → 40kg


毎日、約40kgATPが必要と考えられる。


1molのATPは、毎日約160回のリサイクルが必要となる。

1molATPが、9分に1回のペースでリサイクルされないといけない。



結論は、どちらにしても圧倒的にATPが足りない。

足りないと細胞分裂から筋収縮から様々な場所で弊害が出る。

だから、我々はしっかりと糖質を補う必要があるのだ。

2021/09/26

磁気ネックレスって・・・

五本木クリニックの桑満先生が話題に上げていたので便乗してみました。

先生のブログはこちら


【磁気治療器VSプラセボ】厚労省は大丈夫か?磁気治療器が承認された根拠はスッカスカ!!??

 https://www.gohongi-clinic.com/k_blog/44417/



ってことで、実際に企業がどんな謳い文句をしてるのかと、某大手企業のサイトをチェックしてみましてた。


すると、


「磁気が血管の内側にある内皮細胞に働きかけて、血管拡張物質であるNO(一酸化窒素)の合成を促進すると考えています。

この物質の働きで血管が徐々に拡がり、血行を改善していきます。」


と、ありました。


これだけだと、どう内皮細胞に働きかけてるのか分からなかったので、他のサイトもチェック。

すると、こちらのサイトに

https://jiki-labo.com/why/


①磁気をかけると、コリンエステラーゼの働きが弱まり、分解されるアセチルコリンの血管に作用する量が増えます。

②アセチルコリンはその量に比例して、血管拡張物質である一酸化窒素を増加させます。

③血管の内皮で増加した一酸化窒素は、血管の筋肉である血管平滑筋に作用し、血管を弛緩・拡張させ、血液の流れを良くします。


と、ありました。


これはかなりしっかり作り込まれているので、ほとんどの人が納得してしまうのではないでしょうか。

この表現からも、私が納得してない感が伝わってるとは思いますが、何が引っ掛かっているのかを説明します。



磁気によって、コリンエステラーゼが阻害されるという部分のプロセスに無理があるのです。



確かに、磁気は電荷を持つ粒子が運動することによって生じるので、電荷を持つ原子・分子と関係することは可能と言えます。

ただ、問題はどう関係するのかです。


コリンエステラーゼという酵素を阻害するには、2つの方法があります。


1つ目は、カルバモイル化させる方法。

2つ目は、乱暴ですが、無作為に分子そのものをぶっ壊す方法です。


さすがに2つ目はないと思うので、この説を立証するためには、どうやって磁気がコリンエステラーゼをカルバモイル化し続けるのかと、その特異性を付けてるのかをはっきりさせないといけません。

何故なら、磁気が全ての分子のカルバモイル化に関与していたら、人間はすぐに機能しなくなり死んでしまうからです。

だから、コリンエステラーゼにだけ働く必要があるのです。

数千種類ある酵素のうち、たった1つにだけ都合良く作用する磁気。

ちょっとムリがあると思えてなりません。



では、何故血行が良くなったり楽になると感じる人がいるのか。


おそらくプラセボによるものでしょう。

だだ、プラセボにも過程が存在します。

人間が有機化合物の塊である以上、過程なしで何かが変わることはありえません。

その過程はおそらくこうでしょう。


人間は、意識して筋肉に緊張を与えられるのと同じく、意識して筋肉の緊張を抑制させることができます。

詳しくいうと、筋肉は弛緩をイメージすることで抑制性介在ニューロンを介し、皮質脊髄路の興奮性を一時的に安静時より有意に減少させることができるのです。

そのため、磁気ネックレスをしたから大丈夫という安心感が筋肉の弛緩のイメージに繋がり、実際に筋肉が緊張が抑制されリラックスしたことで血管が拡張したのでしょう。


こう考えると、プラセボでも純粋な人には良い効果を示し、半信半疑で着けてる人には筋肉弛緩のイメージができてないので、効果が分からないのも頷けます。



「結論」

磁気でコリンエステラーゼを阻害するというエビデンスには無理がある。

効果を感じてる人には、せっかくプラセボが作用してるのでそっとしといてあげましょう。





ついでに、プラセボで起きている過程を専門的にまとめてみたので、知りたい方は最後までどーぞ。


プラセボとはいえ、リラックスすると副交感神経からアセチルコリンが分泌され、血管内皮細胞に存在するM3受容体に作用し、一酸化窒素合成酵素(NOS)が活性化されアルギニンから一酸化窒素(NO)が産生されます。


内皮細胞内で産生されたNOは、平滑筋細胞膜を自由に通過して、平滑筋内に入り可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化します。

可溶性グアニル酸シクラーゼはGTPに作用してcGMPの産生を促進し、Gキナーゼを活性化。

Gキナーゼによるリン酸化は、Ca2+の筋小胞体への取り込み促進、Ca2+の細胞外への排出促進、細胞内のCa2+濃度が低下するとミオシン軽鎖キナーゼが不活性化され血管平滑筋の弛緩をもたらします。

それにより血行が良くなったのでしょう。



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