2019/07/22

β-エンドルフィン

プロオピオメラノコルチン(POMC)は、241個のアミノ酸残基からなる。
285個のアミノ酸残基からなるポリペプチドのプレプロオピオメラノコルチン(pre-POMC)が、翻訳後プロセッシングを受けて44個のアミノ酸残基のシグナルペプチド配列が切除されることで出来る。

POMCは主に下垂体前葉と中葉で作られる。
脳下垂体前葉の副腎皮質刺激ホルモン産生細胞
脳下垂体中葉のメラニン細胞刺激ホルモン産生細胞
視床下部弓状核にある約3000個の神経細胞
視床下部背内側核、脳幹にある少数の細胞
皮膚のメラニン細胞
で作られる。

POMCはプロセッシングにより31アミノ酸長のβエンドルフィンになる。
βエンドルフィンは、神経伝達物質。
(ホルモンは、生理活性物質。)
β-エンドルフィンは、オピオイドμ受容体に作用しモルヒネ様作用を発揮する。
モルヒネと比べて、鎮痛剤としての作用が約6.5倍強い。
モルヒネは、チロシンから生合成されるオピオイド系化合物。
オピオイドとオピオイドレセプターの結合によりG蛋白を介して神経細胞の下分極が生じて神経伝達系が抑制される。
オピオイドは、脊髄後角において一次知覚神経線維末端からのサブスタンスPやグルタミン酸のような神経伝達物質の放出を抑制し、脊髄後角に存在する侵害ニューロンの興奮を抑制する。
このような作用以外に、オピオイドが中脳水道周囲灰白質に作用することにより下行抑制系(ノルアドレナリン作動性およびセロトニン作動性)が活性化されることによる脊髄後角における鎮痛作用を示す機序もある。
さらに、視床、大脳皮質のレベルにおいても鎮痛作用が現れる。 
このように、オピオイドの鎮痛作用は中枢神経系内の1ヶ所における作用では説明できない。
さらに、末梢神経におけるオピオイドの鎮痛作用も報告されている。
薬剤の種類によって鎮痛作用の力価には差がある。
鎮痛作用力価の比の目安をモルヒネ:1とすると、フェンタニル:100、スフェンタニル:500 、アルフェンタニル:1 、レミフェンタニル:500 である。 

組織の実質的な刺激は、物理的刺激、あるいはセロトニンやブラジキニンなどの疼痛物質による化学的な刺激であり、これを疼痛神経終末端が感知し、電気的なシグナルに変換し温度痛覚求心経路である外側脊髄視床路を通過し、大脳の中心後回が痛みとして認識した結果が疼痛となる。

2019/05/10

アイシングはいらない vol.2

先日、キックの練習をしているときにバッティングをしてしまいました。
(バッティングとは頭と頭ががつんとぶつかることです。)
目の少し上だっただけに想像以上に痛くのたうち回ってました。
そしたら、ふとアイスパックを差し出されました。
こんなの効かないよと思いながら、せっかくなので実験してみることに。
アイスパックを当てたところ、患部が頭だったからかアイスを食べたときに眉間が痛くなるあの痛みが襲ってきました。
あまりの痛さにアイスパックを外し、患部を手で圧迫したところ痛みが和らぎました。
1回だけだとバイアスがかかっている可能性もあるので5回やってみることにしました。
結局アイシングで1度も痛みが和らぐ事はなく、圧迫では毎回痛みが和らぎました。

実は、これにはすべてエビデンスがあります。
これからそれを出来るだけ分かりやすく説明していきます。

まず、神経は太さや伝導速度によっていくつかの繊維グループに分けられています。
Aβ繊維:触圧覚と言って触ったり圧迫されたりを感じる神経。太さ8〜10μm。
Aδ繊維:痛覚(刺すような鋭い痛み)や、温度の冷たさを感じる神経。太さ1.5〜3μm。
C繊維:痛覚(炎症などズキズキする痛み)や、温度の温かさを感じる神経。太さ0.2〜1μm。

神経には、太い神経ほど脳に優位に情報が伝わると言う特性があります。
今回のバッティングはAδ繊維が反応しています。
冷たさを感じる神経は同じ繊維群なのでほとんど効果がなく、圧迫はそれよりも太い神経なので痛みが和らいだのです。
また、捻挫などの炎症の際にアイシングをして痛みが和らぐのは、炎症はC繊維が反応しているのに対して、冷覚のAδ繊維の方が太いので痛みが和らぐのです。
しかし、結局触圧覚のAβ繊維の方が太いのでわざわざアイシングをしなくても圧迫をしてあげるだけで痛みを和らげることが出来ます。
ちなみに、注意点が一つ。
圧覚は慣れやすい神経のため、こまめに圧迫し直してあげることが効果的です。
これがカラクリになります。
アイシングが治癒を遅らせることを書いた前回のコラムも読み直してもらうと、より合点が行くと思います。

2019/01/25

アイシングはいらない

昨日、ある深夜番組を観ていたらこんな話をしていました。
それは宇宙に関する番組でした。
その業界では、惑星の発見ラッシュと言う時期があったそうです。
実は、惑星自体は観測されていたのですが、権威達の固定観念によりそれを惑星と認めずそのままにしていたようです。
しかし研究が進み、惑星と認めざるを得ない状況になったそうです。
それにより今まで観測されていた惑星が惑星と認められ発見ラッシュという状況が起きたそうです。
その業界の進歩を阻害していたのは、権威と呼ばれる人達の固定観念でした。

それと同じ状況が我々の業界にも起きています。
「アイシング」
今から10数年前、当時私が学生だった頃、2年生の生理学の範囲で既にアイシングが無意味であることに気が付きました。
当時の講師である準教授に確認したところ、「確かにその通りです。しかし、業界ではRICEが主流です。どこかに勤務中はそれに従うのが無難でしょう。そして、開業した時は自分の好きなようにやればよい。」そう言われました。
生理学の範疇でもアイシングが無意味であると言う結論に辿り着けますが、生化学まで学ぶとより具体的に説明することができます。
少し長くなりますが、説明していきましょう。

まずは熱感です。この炎症時の熱感は一体どこから来ているのでしょうか。
人間の体は、有機化合物の塊です。
生体内で何か作用が起きるときはそこには必ず化学反応が関係してきます。
では炎症部位の熱感、これを引き起こす化合物は何でしょうか。
おそらくほとんどの方が説明できないでしょう。
なぜならないから(そのようなタンパク分子は現在同定されてないから)です。
ではその熱感はどこから来ているのでしょうか。
考えられるのはプロスタグランジンによる温熱中枢への感作でしょうか。
ここで問題になって来るのは、その感作により、熱そのものを作り出している部位、または物質は何かということです。
生体内で熱を作ることを産熱といいます。
産熱には、
基礎代謝
筋肉運動
筋緊張
ふるえ産熱
非ふるえ産熱
ホルモン作用
放熱防止
特異動的作用
があります。
これらはどれも生理学の範囲なのですが、この中の一体どれが炎症時の熱感になるのでしょうか。
生化学まで学ぶとサーモゲニンによる脱共役を指摘する方もいるかも知れませんが、これは褐色細胞で多く見られるタンパク質であり、仮に炎症に関係したとしてもアイシングにより酸素供給量が減ればプロトンの濃度勾配が作れず脱共役も減ると考えられます。
以上から考えられる熱感は、血管損傷による血液の貯溜が原因と考えます。
冷え性が良い例で、血行が良い手は温かく、血行が悪い手は冷たくなります。
それと同じです。
そして、炎症時の温度なのですが、血液を介して循環して来た温度はそれ自体が熱源ではないので、血液貯溜によりどれだけ熱が集まろうとも温度は上がらないでしょう。
つまり、タンパク変性を起こす温度には到底及ばないことになります。

次に、その熱が大事な理由を説明して行きます。
生体内では、様々な化学反応が起きて成り立っているのですが、この反応には酵素が必要になります。
実験室でやると一週間かかる反応が、生体内では酵素の力を借りて一瞬で出来るのです。
そして、酵素には最適温度というものがあります。
37〜40℃です。
この熱により、酵素が働き化学反応がスムーズに起きることで治癒が進んで行きます。

次に、アイシングによる血管の収縮問題に移ります。
損傷による興奮性の血管収縮によってある程度は血管が収縮します。
無駄な血液の消失を防ぐためです。
そこにさらにアイシングで血管を収縮させることは、回復を遅らせることになります。
アイシングによる交感神経優位が前毛細血管括約筋をより収縮させ、組織への酸素供給量が減ると、膜間腔とマトリックスの間でプロトンの濃度勾配が作れなくなり、それによりATPが作れなくなります。(ここの細かい説明は生化学の電子伝達系を参照してください。)
ATPが枯渇すれば細胞分裂時の微小管上のモータータンパクが動かなくなり、その段階で細胞分裂は止まります。
治癒は全て細胞分裂によって行われます。
これが、アイシングが良くない理由になります。

ちなみに、アイシングには神経の伝達速度を遅らせるという機能がありますが、あくまでも脳が受容する速度が遅くなってるだけで、治癒には何の関係もありません。
痛みが麻痺して、一時的に楽になったからといって上記の理由で細胞分裂が起きてなければ治癒にはなりません。
ただの現場保存でしかないでしょう。
一般人なら関係ありませんが、一日でも早く現場復帰を考えるアスリートにとってアイシングは足枷でしかないのです。


おまけ
医学は常に進歩してます。
これから先、炎症時の熱タンパク分子が発見され同定されるかも知れません。
その時はまた考えを改めねばなりませんが、現状の教科書・参考書を読む限りでは、これがリアルだと思います。