2018/11/26

脂肪冷却

脂肪冷却による、脂肪細胞破壊。
そこには一体どんなプロセスが存在するのだろうか。
そこで、脂肪冷却に関して考察してみた。

まず、美容外科さんのサイトを漁り調べてみると、どこのサイトも脂肪冷却はハーバード大学の研究チームが発表した論文が元になっていると謳っている。
この段階で多くの消費者は、登場した大学のスゴさに思考を停止させる。
美容外科のサイトでは、もちろん細かなプロセスは載せてないので、今度は美容機器メーカーのサイトを漁る。
そこで、あるマシンの医薬品医療機器総合機構による審査報告書があったので読んでみた。
どうやら、脂肪冷却により脂肪細胞にアポトーシスを誘発させ脂肪を減少させるらしい。
40ページもあったのに得られた情報はこれだけ。
私が知りたいのは、どういうプロセスで冷やしただけでアポトーシスが誘発されるかだ。
仕方なく元になったハーバード大の論文も見付けて読んでみた。
そこでやっと少し前進。
その論文には、
Triglycerides can crystallize around 10℃ depending on chain length, cooling rate and degree of saturation.
「トリグリセリドは、鎖長、冷却速度および飽和度によって約10℃で結晶化することができる。」
また、
Taken together, these observations suggest but do not prove that lipid crystallization is responsible for selective injury to adipose tissue.
「まとめると、これらの所見は脂質の結晶化が脂肪組織への選択的傷害の原因であることを、証明はしてないが示唆する。」
とある。
通常、液体が固体(結晶)になるときは、分子の位置や方向に規則性が出来るのだが、分子間の距離はほとんど変わらない。
しかし、脂肪に関しては、それすらもアポトーシスの要因になるのだろうか。
論文の表現からもそこは分からないのか。
ちなみに、脂肪は最初から固体ではと思うかも知れないが、ここでは、脂肪細胞の中の細胞質基質(液体)が結晶化することを話している。

【考察結論】
恐らく、冷却により脂肪細胞内の細胞質基質が結晶化することで細胞自体の物質供給が止まりアポトーシスが起きるのだろう。
そして、結晶化の温度の高さが中性脂肪にだけ働く特異性になっているようだ。

最後に、夢を壊してしまったら申し訳ないが、表記してあった減少した脂肪の厚さを書いちゃおうかな。
数ミリだって…
走るの嫌いだけど、走った方が痩せそうだな。






2018/08/26

プロテイン

プロテインというと、筋肉を付けるために飲むものと認識されている方がほとんどではないでしょうか。
誤りではありませんが、プロテインとは本来身体を回復させるものなのです。
ですので、日々仕事で疲れている私たちの身体にはプロテインがとてもオススメです。
ボディービルダーは、過度のトレーニングを行い、プロテインの回復能力を利用し筋肉の運動性肥大を誘発させているだけなのです。
プロテインとはタンパク質のことで、タンパク質は私たちの身体のほとんどを構成しています。
皮膚も筋肉も内臓も血管も、そして意外かも知れませんが骨にもタンパク質が使われています。
前回のコラムで書いたコラーゲンがまさに骨で使われているタンパク質なのです。
今回のコラムは、前回のコラムの続きなのでコラーゲンを例に取り上げてタンパク質の説明をして行きます。

まず、タンパク質は吸収される際にアミノ酸にまで分解されます。
吸収されたアミノ酸は、細胞質中に遊離アミノ酸として存在し、翻訳時にtRNAに運ばれて行きます。
そして、その場所ごとに必要なタンパク質が作られます。
コラーゲンもタンパク質ですし、コラーゲンの生成過程に関わる様々な酵素もタンパク質です。
どれか一つが欠けてもコラーゲンは生成されません。
結局、全ての細胞質にバランス良く材料となる様々な遊離アミノ酸が存在して初めてコラーゲンが生成されるわけです。
コラーゲンペプチドが取り上げられてますが、確かにコラーゲン生成の起爆剤かも知れませんが、それは全ての生成に関わるパーツが揃ってる上での話であって、プロテインはそのパーツの多くを満たすことが出来るのです。
ですので、前回コラーゲンを摂るよりも、プロテインを摂った方が手っ取り早いとお伝えしたのです。
それでは、次にプロテインを摂る上で気になる質問に答えて行きましょう。

「筋肉が付き過ぎたりしないか」
しません。
そんなに簡単に筋肉隆々になったら、ボディービルダーの方たちは苦労しません。
筋肉は使わなければ簡単に萎縮しますので、むしろキープする方が難しいくらいです。

「運動してないのに飲んで太らないのか」
摂取量さえ注意すれば、まず太りません。
生体内には、アミノ酸から中性脂肪への反応ルートが確かに存在しますが、アミノ酸の需要が多過ぎてまず中性脂肪にまで回りません。
先にも上げた様に必要箇所が多過ぎて、その前に使い果たされてしまいます。

「そもそも運動してないのに飲んで良いのか」
良いです。
アミノ酸は毎日自分の体重分gは必要です。
60kgの人は60g
正確な数字としてはもう少し%が低いのですが、摂取したタンパク質が全て消化吸収されるとも限らないので、体重分gを意識してください。
一日の食事から摂れるタンパク質量をざっくり調べて、不足分をプロテインで摂ると良いです。

「摂り過ぎは腎臓に負担がかからないのか」
腎臓の悪い方は、タンパク質摂取を控えたりしますが、健常者はそこまで気にしなくても大丈夫だと思います。
それを言いだしたら、肺胞の負担を減らすために酸素摂取を控えますか?
筋肉に負担がかかるから運動を控えますか?
脳に負担がかかるから考えることをやめますか?
など、キリがありません。
むしろ、タンパク質摂取量が体重分gより少ないことの方が問題です。
炭水化物はエネルギーでしかありませんので控えるのもありですが、タンパク質は私たち自身なのです。
私たちの身体はタンパク質で出来ているのです。

「オススメの摂り方はありますか」
基本的には回復に効果的な夜が良いと思いますが、多くの方が夜は食事から摂取出来ていると思いますので、朝が良いかも知れません。
一度に摂り過ぎると、消化の過程でスカトールが生成され便やオナラが臭くなります。
そうした場合は、一度に摂取し過ぎという合図になりますので、一日のうちで何回かに分けて摂るなり、食事から摂れてる量を調べ直したりすると良いと思います。

以上が良くある質問です。
これを機会にぜひ皆さんのタンパク質摂取量を見つめ直してみてください。
女性は以外と摂れてない方がいるかと思います。
日々の疲れも取れますし、美容にもとっても効果的なので、体重分gのタンパク質摂取にプロテインを上手く活用して見てください。





2018/08/18

コラーゲン ver.2.5

コラーゲンのコラムをver2.5として書き直してみました。
説明上、専門的な言葉も入ってしまいますが、出来るだけ分かりやすく書いたつもりです。
良かったら参考にしてみてください。

私達の体内において、コラーゲンの活躍の場は多岐に渡り、はっきり分かってるだけでもⅠ型〜ⅩⅤⅢ型まであります。
そんな中、今回は多くの女性が気になるⅠ型を始めとする肌のコラーゲンを見て行きます。

I型コラーゲンのコラーゲン領域のアミノ酸組成はグリシン残基が1/3を占め、プロリン及びヒドロキシプロリン残基を合わせて21%、アラニン残基が11%となります。
ということは、I型コラーゲンの材料であるグリシンやプロリン、ヒドロキシプロリンを多く摂れば効果的と言えるでしょう。
ではまず、グリシンは何に多く含まれているかというと、普通のタンパク質の中にはそれほど含まれておらず、コラーゲンの中に多く含まれていると。
ということは、摂取したコラーゲンが直接肌に行くことはなくても、生成過程での材料目的でコラーゲンを摂ることは理にかなっていると言えそうです。
プロリンもまた、コラーゲンを摂ることで材料として吸収出来ます。
ですので、コラーゲンを作りたいならコラーゲンを摂取することは間違いではなさそうです。
ちなみに、コラーゲンは体内に吸収される際には細かく分解されるので、よくある「希少なコラーゲン」である必要はありません。
何故なら、材料であるグリシンやプロリンには希少も何も無いからです。

次に、数あるコラーゲンサプリの中で、どのサプリが良いかという話になります。
コラーゲンには、生成過程で必要な成分というものがあります。
コラーゲン特有のアミノ酸残基であるヒドロキシプロリンやヒドロキシリジンは、まずそれぞれプロリン・リジン残基の形で合成され、タンパク鎖が形成された後に小胞体内で水酸化されます。
この反応時に、補酵素にビタミンC、捕因子に鉄、翻訳後修飾にリジンが必要になります。
ですので、サプリ購入時にはコラーゲンと一緒に、ビタミンC、鉄、リジンが含まれているものを探していただくと良いと思います。
そこでオススメなのは、アミノ酸スコア100のプロテインを摂るのが一番手っ取り早いかと。
まず、アミノ酸スコア100のプロテインの中には、グリシン、プロリン、リジンがしっかり含まれていますし、一緒にビタミンCが入ってるプロテインもあります。
また、コラーゲンはペプチドの状態でも吸収されるとありますが、確かに小腸から小腸粘膜上皮細胞内にはペプチドの状態で吸収されますが、小腸粘膜上皮細胞内でアミノペプチダーゼによって加水分解され血管内に入る時には遊離アミノ酸に分解されています。
一部ペプチドがそのまま血中へとの研究データは出ているようですが、輸送タンパクまで同定されたわけではありません。脂質のミセルの様なパターンも考えられますので、わざわざコラーゲンで摂らなくてはならない理由はないのです。
しかも、今の時代、プロテインは安いしとても飲みやすくなってますので、本当にオススメです。

次に、コラーゲン生成を促して行く過程で必要になって来ることがあります。
コラーゲンの生成には大量の酸素の供給が必要になります。
ですので、肌自体の血行を良くして酸素が細胞に供給されやすい環境を作っておくと効果的と言えます。
エステでのフェイシャルも効果的ですし、マッサージで首肩のコリを取っておくと肌への血行も良くなります。

最後に、化粧品としてのコラーゲンですが、コラーゲンは保湿効果が高いタンパク質であり、コラーゲン分子は3残基ごとに繰り返すグリシン以外の残基がすべて分子表面に露出しているので、周囲に多くの水分子を保持できます。
ですので、コラーゲン生成には繋がりませんが、皮膚表面に塗布することで肌を保湿するという効果は期待出来ます。
ちなみに、皮膚に塗布したコラーゲンがそのままの形で皮下に吸収・利用されることは考えにくいでしょう。

まとめ
コラーゲンサプリよりも、アミノ酸スコア100のプロテインを摂るのが他の必要アミノ酸も摂れるので効果的と言えるでしょう。
そして、酸素が細胞に供給されやすくするために、エステやマッサージなどで血行を促進しましょう。

ここからは、専門家の方へ
コラーゲンは、1000残基近い長さを持つ3本のらせん状のポリペプチド鎖からなり、長さが約3000Åで半径が15Åの棒状分子です。
グリシンがアミノ酸配列の3残基ごとに現れ、各鎖は他の2つの鎖と水素結合し超らせんケーブルを形成します。
この時、グリシンのみが内側の配置に収まります。
ビタミンC (アスコルビン酸)は、特異的な抗酸化剤として働き4-ヒドロキシプロリンを合成します。
ヒドロキシプロリンが多くあるとコラーゲン鎖間に水素結合が形成され、コラーゲンの3重らせんが安定化されます。
ですので、ビタミンCの欠乏はコラーゲンの不十分なヒドロキシ化を引き起こし、その結果生じた異常なコラーゲン繊維は正常な組織強度を維持することができなくなります。
こらがビタミンCが必要な専門的な理由になります。

2018/07/21

湯船と酵素

湯船に浸かることが良いことだと言うのは皆さんご存知だと思います。
では、何故良いのかと聞かれたら、新陳代謝が良くなるとか、身体が温まるとか、血行が良くなるとか。
これは、一般の方向けの分かりやすい説明です。
そこで今回は、治療家間でどんな話がされてるかを説明したいと思います。

例えば、車にキーを挿してから走り出すまでに、実際は様々な行程が存在する様に、身体にも細かな行程が存在します。
それは全て分子レベルでの化学反応であり、人の身体はその分子レベルの化学反応の連続生体系が維持されてます。
通常、実験室で化学反応を起こすと一週間くらいかかる反応が、生体内では酵素の力を借りて一瞬で反応出来てしまうのです。
もの凄いハイスペックです。
そして、この酵素がとても重要になるのですが、この酵素には適正温度というのがあります。
それが摂氏37度前後なのです。
体温には、外殻温度と核心温度があり、外殻温度は体表近く、核心温度は身体の中心部、内臓などの温度になります。
外殻温度と核心温度は大体1度違うので、体温計で36.5度あれば核心温度は最適と言えるでしょう。
最近は体温の低い方が増えておりますので、しっかりお風呂で身体を温めてあげることで酵素による化学反応が活発に行われ、身体に必要な成分が生成されるようになります。
必要な成分が揃って初めて細胞分裂も正常に行われ、健康が維持されます。
ですので、湯船に浸かると疲れが取れるのです。

<おまけ>
酵素には基質特異性と言って、この化学反応にはこの酵素と言うように、反応に必要な酵素に決まりがあります。
要は、酵素は化学反応の数だけ存在するのです。
そのため、酵素の種類は数千種類以上確認されています。
このことから、特定の酵素ドリンクだけを飲んでもあまり効果的とは言えないことが分かるかと思います。
また、酵素はタンパク質から出来ているので、結局体内に吸収される際にはアミノ酸まで分解されてしまいますので、バランスの良いプロテインを摂る方がおすすめです。
プロテインはトレーニング後だけと思われている方がまだいるようですが、体重分gのタンパク質は毎日必要ですので、毎日プロテインを摂っても大丈夫です。
私も、健康目的で毎日欠かさず飲んでます。
トレーニング無しでプロテインを摂ると太るのではと心配されてる方は、まず問題ありません。
確かに、アミノ酸から中性脂肪への反応ルートは存在しますが、体重分gのプロテイン摂取で太ることはまずないでしょう。
その前に生体維持でそのアミノ酸は消費されてしまいますから。
おまけの方が長くなってしまいましたが、運動されてる方や、日頃疲れが取れないなんて方はぜひ湯船に浸かって身体を温めてあげてください。





2018/02/16

ケトン体

グルコースの不足によりオキサロ酢酸が減り、クエン酸回路が回らなくなると、脂肪酸のβ酸化で生じたアセチルCoAはケトン体の合成に入ります。
ケトン体には
アセト酢酸
3-ヒドロキシ酪酸
アセトン
の3つがあります。

合成過程は以下になります。
グルコース不足下で増え過ぎたアセチルCoAは、チオラーゼとアセチルCoAによりアセトアセチルCoAになります。

アセトアセチルCoAは、HMG-CoA合成酵素とアセチルCoAとH2Oにより3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA(HMG-CoA)になります。

3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAは、HMG-CoAリアーゼによりアセト酢酸になります。

アセト酢酸は、3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素とNADH2により3-ヒドロキシ酪酸になります。

また、アセト酢酸は、非酵素的反応により、H+が付きCO2が抜けアセトンになります。

アセト酢酸と3-ヒドロキシ酪酸は、心臓、骨格筋、脳、腎臓などに移動し、ミトコンドリアのマトリックス内で再びアセチルCoAに変えられてエネルギーとして利用されます。
アセトンは呼気や尿中に排泄され、体内では利用されません。

これらケトン体は、HMG-CoA合成酵素が肝細胞のミトコンドリアにしか発現してないので肝臓でしか作れません。

そして、移動したアセト酢酸や3-ヒドロキシ酪酸は、まず3-ヒドロキシ酪酸が3-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素によりアセト酢酸になります。

アセト酢酸は、スクシニルCoA転移酵素とスクシニルCoAによりアセトアセチルCoAとコハク酸になります。

コハク酸はクエン酸回路でオキサロ酢酸になり不足分のオキサロ酢酸を補い、アセトアセチルCoAは、チオラーゼとCoA-SH(補酵素A)により2つのアセチルCoAとなりクエン酸回路へ入りエネルギーとして利用されます。

スクシニルCoA転移酵素は肝臓では発現してないので、肝臓はケトン体の自家消費が出来ません。

以上がケトン体の合成過程にまります。
ケトン体のメリットはコハク酸からオキサロ酢酸を作れることです。
グルコース不足下で増え過ぎたアセチルCoAは肝臓でケトン体にされ、戻って来ます。
それにより、オキサロ酢酸が作られアセチルCoAと合わさりクエン酸回路が回り始めるからです。

グルコース不足下では、糖新生系だけでアセチルCoAが増え過ぎることはないでしょうから、ケトン体は、中性り脂肪ありきの話と言えるでしょう。
ケトン体を作るにはアセチルCoAが必要になります。
アセチルCoAが増えるためにはβ酸化が必要で、β酸化は脂肪酸の分解の反応系だからです。

よって、反応の順番としては、乳酸とグリセロールによる糖新生→脂肪酸によるケトン体→アミノ酸による糖新生の順番とも言えるでしょう。






2018/02/12

β酸化

食事をして4〜5時間もすると、肝臓のグリコーゲンの分解による血中へのグルコース供給も減り、それに伴い各組織でトリグリセリドの加水分解が始まります。
脂肪組織で生じた脂肪酸はβ酸化によりエネルギーとして利用されます。

β酸化はミトコンドリアのマトリックスで行われるため、マトリックス内に入る必要があります。
まず、脂肪酸はミトコンドリア外膜にあるアシルCoA合成酵素によってアシルCoAになります。
アシルCoAは外膜を通過して膜間腔に入ります。
炭素数が11より短い場合はアシルCoAは内膜も通過出来るのですが、炭素数が11以上になると内膜を通過出来ないので、アシルCoAは内膜にあるカルニチンアシル基転移酵素Ⅰによりカルニチンと反応しアシルカルニチンとなります。
アシルカルニチンは、内膜にあるカルニチン-アシルカルニチントランスロカーゼにより、カルニチンと入れ替わりに内膜を通過してマトリックス内に入ります。
次に、アシルカルニチンは内膜のカルニチンアシル基転移酵素ⅡによってアシルCoAになり、β酸化の反応が始まります。

β酸化は以下の4段階の反応からなります。
アシルCoA→
エイノルCoA→
ヒドロキシアシルCoA→
オキソアシルCoA→
アセチルCoA+アシルCoA

まず、アシルCoAは、アシルCoAデヒドロゲナーゼ(脱水素酵素)とFADによりエイノルCoAとなります。

エイノルCoAは、エイノルCoAヒドラターゼとH2OによりヒドロキシアシルCoAになります。

ヒドロキシアシルCoAは、ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼとNADにより3-オキソアシルCoAとなります。

オキソアシルCoAは、アセチルCoAアシル基転移酵素(チオラーゼ)とCoA-SH(補酵素A)により、アセチルCoAと炭素数が2炭素分短くなったアシルCoAになります。

偶数鎖の場合は、これを繰り返し全てアセチルCoAになりクエン酸回路に入ります。
奇数鎖の場合は、最後、アシルCoAが炭素数3つのプロピオニルCoAとなります。
プロピオニルCoAはメチルマロニルCoAを経てスクシニルCoAになりクエン酸回路に入ります。

また、不飽和脂肪酸のβ酸化は、途中で不飽和部分が処理されます。
β-γ間にニ重結合があるエイノルCoAは、イソメラーゼにより二重結合の位置を移されα-β間に二重結合がある通常のエイノルCoAにされます。
また、γ-δ間に二重結合があるジェイノルCoAが生じたときは、2,4-ジェイノルCoA還元酵素によりβ-γ間にニ重結合があるエイノルCoAにされ、次にイソメラーゼで通常のエイノルCoAにされβ酸化を受けます。

パルミチン酸がβ酸化されると147モルのATPが作られます。
炭素数16個なので、アセチルCoAが8モル、FADHが7モル、NADHが7モル生じます。
電子伝達系では、1FADH(QH2)で6H+、1NADHで15H+の濃度勾配が生じます。
アセチルCoA1分子で、1FADH、3NADH、1ATP生じるので、Hの濃度勾配から生じるATPも合わせると、

{(6+45-2m)/8}×3+1=m
m=11.5
11.5×8=92ATPが生じます。

7FADHと7NADHから147H+の濃度勾配が生じるので、147/8×3=55ATPが生じます。

92+55=147ATP
となります。

ちなみに、医学書院の生化学の教科書では、パルミチン酸のβ酸化で生じるATPは106で、脂肪酸は最初に2ATP必要なので、正味104ATPとなってます。





2018/02/11

糖新生

人間は、血糖値が50〜60mg/dl以下になると低血糖になり脳に影響が出てしまいます。
また、活動中にも関わらず10時間くらい摂食しないと、肝臓のグリコーゲンの分解も尽きてしまいます。
そうならないように、グルカゴンの分泌をシグナルにグルコース以外の物質からグルコースを作るための仕組みが糖新生経路です。
糖新生は肝臓、腎臓、膵臓、小腸で行われます。
糖新生のおもな原料は、乳酸、グリセロール、アミノ酸です。
以下、その生成過程を見て行きましょう。


乳酸は、肝臓内のグリコーゲンが枯渇してなくても運動の初期などでグルコースが必要になれば糖新生系に入ります。
乳酸からピルビン酸になるには乳酸脱水素酵素とNAD+が必要になります。
乳酸(C3H6O3)が酸化されピルビン酸(C3H4O3)になります。
C3H6O3+NAD→C3H4O3+NADH2

その後、ピルビン酸からホスホエノールピルビン酸にはエネルギー差が大きくて直接戻れないので、リンゴ酸-ホスホエノールピルビン酸シャトルによって迂回して逆走します。
ピルビン酸はまずミトコンドリア内に移動しオキサロ酢酸となります。
ピルビン酸(C3H4O3)からオキサロ酢酸(C4H4O5)になるには、ピルビン酸カルボキシラーゼとATPとCO2が必要になります。
C3H4O3+ATP+CO2→C4H4O5+ADP+H3PO4

その後、オキサロ酢酸はミトコンドリアの膜を通過出来ないので一旦リンゴ酸になります。
オキサロ酢酸(C4H4O5)からリンゴ酸(C4H6O6)になるには、リンゴ酸デヒドロゲナーゼとNADH2が必要になります。
C4H4O5+NADH2→C4H6O6+NAD+

この後、ミトコンドリアの膜を通過しリンゴ酸からオキサロ酢酸に戻ります。
この際もリンゴ酸デヒドロゲナーゼによってオキサロ酢酸に戻ります。
分子式は上記逆走。

細胞質内に出たオキサロ酢酸は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼの作用を受けてホスホエノールピルビン酸になります。
オキサロ酢酸(C4H4O5)からホスホエノールピルビン酸(C3H5O6P)になるには、ホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼとGTPが必要になります。
この際GTPが加水分解されリン酸基がつき、GDPとCO2が生成されます。
C4H4O5+H3PO4→C3H5O6P+CO2+H2O

ホスホエノールピルビン酸からは解糖系を逆走して行きますが、2箇所だけ解糖系とは違う酵素が必要になります。

まず、フルクトース1,6-ビスリン酸からフルクトース6-リン酸の生成にはフルクトース1,6-ビスホスファターゼとH2Oが必要になります。
フルクトース1,6-ビスリン酸(C6H14O12P2)はフルクトース1,6-ビスホスファターゼにより脱リン酸化されフルクトース6-リン酸(C6H13O9P)になります。
C6H14O12P2+H2O→C6H13O9P+H3PO4

最後は、グルコース6-リン酸からグルコースの生成になりますが、小胞体内のグルコース6-ホスファターゼが酵素として働き、脱リン酸化されます。
このグルコース6-ホスファターゼは肝臓と腎臓にしか発現していません。
C6H13O9P+H2O→C6H12O6+H3PO4

乳酸さんから糖新生の流れは以上になりますが、筋肉内の解糖系でピルビン酸からアラニンになった場合も同様です。
アラニンは、筋肉から肝臓に運ばれてアラニントランスアミナーゼによりピルビン酸に戻され糖新生系路に入ります。


一方、アミノ酸は肝臓に貯蔵されていたグリコーゲンがなくなると糖新生が始まります。
ここで使われるアミノ酸は糖原性アミノ酸と呼ばれ、糖原性アミノ酸はTCAサイクルでオキサロ酢酸を経てホスホエノールピルビン酸になり糖新生系路に入ります。


最後に、グリセロールもアミノ酸と同様に肝臓に貯蔵されていたグリコーゲンがなくなると糖新生が始まります。
中性脂肪が加水分解され生じたグリセロールは、脂肪組織内にはグリセロール3-リン酸にするための酵素グリセロールキナーゼがないため血中に放出されて肝臓に入ります。
グリセロール(C3H8O3)は細胞質内でグリセロールキナーゼによりリン酸化されグリセロール3-リン酸(C3H9O6P)となります。
C3H8O3+H3PO4→C3H9O6P+H2O

グリセロール3-リン酸は細胞質内でグリセロール3-リン酸デヒドロゲナーゼにより還元されジヒドロキシアセトンリン酸(C3H7O6P)になり、解糖系を逆走して行きます。
C3H9O6P+NAD→C3H7O6P+NADH2


これらの糖新生により再生されたグルコースは、血流に乗ってグルコースの欠乏した組織に運ばれて行きます。


<補足>
インスリンは、ホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼと、グルコース6-ホスファターゼの遺伝子のmRNAへの転写を抑制することで、糖新生を抑制します。





2018/02/01

ATP合成酵素とATP生成量

ATP合成酵素はミトコンドリア内膜に埋め込まれたローター部分(Fo)と、bサブユニットに固定されマトリックスに突出したATP合成部分(F1)からなります。
ローターの脇にaサブユニットがあり、ここから濃度勾配を利用してH+が流入します。
その勢いでローターが回転し、ATP合成部位は変形を繰り返しATPが生成されます。

まず、ローターは8〜14個のcサブユニットという円筒形のタンパク質が束ねられて出来ています。
cサブユニットの中央付近にあるアスパラギン酸側鎖に膜間腔から、aサブユニットのアルギニン側鎖を通じてH+が結合し、アスパラギン酸は-荷電を失い中性になります。
その時、このcサブユニットの後方のcサブユニットはまだH+を結合しているのですが、H+を受け取る位置に近付くと持っていたH+を解離し、遊離したH+はマトリックスに放出されます。
H+を解離したcサブユニットは改めてaサブユニットからH+を受け取り中性となり、脂質層側に回転します。
これを、cサブユニットの数だけ繰り返すことで1回転します。
cサブユニットの数は、人は8個と推定されていて、ローター1回転で3分子のATPが生成されます。
また、ローター部位と合成部位は普段はそれぞれ逆方向に回転をしています。
H+の濃度勾配がスイッチとなり、ローターによって強制的に普段とは逆回転にされることでATPが生成されます。
その分、濃度勾配が少ないときは合成部位はATPをADPとPiにし、H+を膜間腔に能動輸送しています。

ATP合成部位では、軸の回転によるタンパク質の変形を利用してATPが生成されます。
まず、ATP合成部位の触媒部位が開いてADPとPiが入り、軸の回転によりタンパク質が変形してADPとPiが閉じ込められます。
そして、タンパク質がさらに変形してコンパクトになり脱水結合してATPが生成され、その後、タンパク質の形が戻りATPがマトリックスに放出されます。
そして、ATPは細胞質へと輸送されて行きます。

1分子のグルコースから生成されるATP量は器官によって変わって来ます。
解糖系で生成されたNADHは、
グリセロールリン酸シャトル
(脳、筋肉)
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル
(心筋、肝臓、腎蔵)
によって電子伝達系に入ります。
酸化されたNADは解糖系に補充されます。
また、ATPを作る上での原料をミトコンドリア内に取り込む時や、生成されたATP細胞質へ輸送すると時にもH+が使われます。
まず、グリセロールリン酸シャトル系では、
細胞質の基質で出来るATPは2ATP。 
ミトコンドリア内の基質で出来るATPは2ATP。
グリセロールリン酸シャトル系で生じる濃度勾配は144H。
取り込み時に-2H。
ピルビン酸取り込み時に-2H。
ATP輸送1分子に対し-2Hなので-2X
ローターにおいて8Hの流入で3ATPの生成。
よって、ミトコンドリア内で生成されるATPをXとすると、
X={(144−2−2−2X)/8}×3+2
X=31.1
31.1+2(細胞質基質分)=33.1なので33ATP。

これがリンゴ酸-アスパラギン酸シャトルだと、
細胞質の基質で出来るATPは2ATP。
ミトコンドリア内の基質で出来るATPは2ATP。
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルで生じる濃度勾配は162H。
取り込み時に-4H。
ピルビン酸取り込み時に-2H。
ATP輸送1分子に対し-2Hなので-2X
ローターにおいて8Hの流入で3ATPの生成。
よって、
X={(162−4−2−2X)/8}×3+2
X=34.6
34.6+2=36.6なので36ATPとなります。

教科書によってこのATPの数が違うのは、取り込みや輸送の際の消費H+量の考え方の違いによるものです。

ちなみに海外の生化学参考書では、
NADHから2.5ATP
FADH2から1.5ATP
解糖系のグリセロールリン酸シャトルにおいては
NADHから1.5ATP
という計算により、
グリセロールリン酸シャトル系は30ATP
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル系は32ATP
となっています。
だいぶ違いがありますね。

私も生理学では、1分子のグルコースから生成されるのは38ATPと習いましたが、さすが生化学となるともっと奥が深くなるようです。
とりあえず、一般的には

グリセロールリン酸シャトル系は30ATP
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル系は32ATP

で覚えておいた方が良いかと思いますが、個人的にはNADHが何ATPという計算方法ではなく、H+の濃度勾配から計算する、

グリセロールリン酸シャトル系は33ATP
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル系は36ATP

の方が好きだったりします。







2018/01/30

電子伝達系

解糖系、クエン酸回路と来たので、電子伝達系をまとめてみました。
ATP合成の基盤となる部分であり、個人的には理解すると生化学がとても楽しくなる部分だと思います。

電子は、クエン酸回路の基質を始まりとして、NADHやFADH2を経て、複合体やユビキノン(Q)、シトクロムc(Cytc)を通ってミトコンドリア内膜の中を伝達されて行き、最後は酸素に伝達され水となります。
プロトンは、それぞれの複合体でミトコンドリアの膜間腔にくみ出され、濃度が高くなると内膜にあるATP合成酵素を通ってマトリックスに流れ込みます。
この際のエネルギーを利用して大量のATPが合成されるのです。

電子の流れを簡単に書くと、
複合体Ⅰ・Ⅱ→ユビキノン→複合体Ⅲ→シトクロムc→複合体Ⅳ→O2

ちなみに電子が移動する原動力としては、電子は還元電位が大きい方に流れて行くという性質があります。
それでは、1つずつ細かく見て行きましょう。

複合体Ⅰ
クエン酸回路で生じたNADHは複合体ⅠでFMNにH-(H+と電子e-2で構成)を渡します。
さらにFMNはマトリックスからH+も取り込んでFMNH2になります。
このあとFMNH2はFe-Sクラスターに電子を渡します。
複合体ⅠにはFe-Sクラスターが、7〜8個あります。
これを飛び移って行き最後に、複合体Ⅰに付着しているユビキノン(Q)に渡されるのです。
電子が複合体Ⅰ内を移動中、マトリックスから2H+が吸収され、膜間腔には計4つのH+が放出されます。
ユビキノンはFe-Sクラスターから2個の電子e-を受け取ると、マトリックスからも2H+を吸収してQH2になりミトコンドリア内膜の中を拡散して行きます。
これにより、NADH→QH2の間に、
マトリックスから+5H
膜間腔へ+4H
計9H分の濃度勾配が出来ます。

複合体Ⅱ
複合体Ⅱは、クエン酸回路のコハク酸脱水素酵素です。
コハク酸から電子2個とH+2個がFADに渡り、FADはFADH2になります。
FADH2は電子を1個ずつ2回Fe-Sクラスターに渡し、H+を2個マトリックスに放出してFADに戻ります。
電子は3個のFe-Sクラスターを移動し、ユビキノンに伝達されます。
ユビキノンは2個の電子と、マトリックスから2H+を取り込んでユビキノール(QH2)になり、内膜の中を拡散して行きます。

複合体Ⅲ
QH2は複合体Ⅲに出会うとQH2サイトに結合し、運んでいた電子2個のうちの1つをFe-Sクラスターに、もう1つをシトクロムbが持つヘムb566に渡します。
電子を失ってQH2から遊離した2H+は膜間腔に放出されます。
そしてQH2はQになりQサイトに移ります。
そして、Fe-Sクラスターに渡された電子はシトクロムc1を経て、膜間腔側の表面に結合しているシトクロムcに渡されます。
電子を受け取ったシトクロムcは酸化型から還元型になり複合体Ⅲから遊離します。
一方、ヘムb566に渡された電子は、ヘムb562を経てQサイトに結合したQに渡されます。
Q-になった後、次のQH2のやりとりを待ち、再び電子を得たQ-はマトリックスから2H+も得てQH2になって内膜内に出て行きます。
まとめると、
2分子のQH2が来て、1分子のQH2と1分子のQ、さらに2分子の還元型シトクロムcが生じます。
その間に、
マトリックスから+2H+
膜間腔へ+4H+
計6H+分の濃度勾配が出来ます。
(もとの1分子のNADHあたり3h+の濃度勾配)

複合体Ⅳ
複合体Ⅳでは、膜間腔を移動して来た還元型シトクロムcから電子が1個ずつ4回供給され、マトリックスからプロトンが4つ取り込まれます。
シトクロムcは電子を渡すことで酸化型シトクロムcに戻り複合体Ⅳから離れて行きます。
複合体Ⅳに結合した電子は、還元型シトクロムcから複合体Ⅳの銅イオンに飛び移ります。
その後、ヘムα、ヘムα3、ヘムα3内の銅イオンへと飛び移ります。
最後にヘムα3と銅イオンの間に結合しているO2に移ります。
まず、最初の電子2個でヘムα3の鉄原子Feと銅原子Cuがそれぞれ還元され酸素分子が結合出来るようになります。
酸素分子O2は還元されたヘムα3のFeとCuの両方から結合電子を受け取りFe-O-O-Cuになります。
その後、酸素分子は還元型シトクロムcから電子をさらに2個受け取り、マトリックスからのH+2個と結合し、Fe-OH HO-Cuになります。
最後にまたH+が2個取り込まれ2H2Oが生成され膜から出て行きます。
そして水分子がなくなったFeとCuは初期の状態に戻ります。
この過程において、機構は未解明ですが別途で4個のH+がマトリックスから取り込まれ、4個のH+が膜間腔に放出されます。
よって、1分子のO2から2分子の水が作られる過程においては、
マトリックスから+8H+
膜間腔へ+4H+
計12H+分の濃度勾配が出来きます。
(もとの1分子のNADHあたり3h+の濃度勾配)

こうして出来たプロトンの濃度勾配によって、ミトコンドリア内膜内のATP合成酵素のモーターが回りATPが生成されるのです。
次回は、ATP合成酵素やATP生成量についてまとめたいと思います。





2018/01/14

クエン酸回路(TCAサイクル)

クエン酸回路はミトコンドリアのマトリクスに存在するシステムです。
クエン酸回路は、アセチルCaAが組み込まれることによって反応が始まります。
そのためには、まず解糖系で生成したピルビン酸がアセチルCaAにならないといけません。

ピルビン酸からアセチルCaAの生成には、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体という酵素と、チアミンピロリン酸(TPP)、リポアミド、CoA、FAD、NADという補酵素が必要になります。

ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体は、
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(E1)
ジヒドロリポイルトランスアセチラーゼ(E2)
ジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ(E3)
という3つの酵素からなり、反応は5段階に分かれています。

5段階の過程は、
ピルビン酸
ヒドロキシエチルチアミンピロリン酸
S-アセチルジヒドロリポイルリシン
アセチルCaA
となります。
これだけ見ると3回の反応ですが、これにFADとNADの酸化還元反応が補助的に入ります。

ピルビン酸からヒドロキシエチルチアミンピロリン酸の生成には、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(E1)とチアミンピロリン酸(TPP)が必要になります。
ピルビン酸(C3H4O3)にチアミンピロリン酸(C12H19N4O7P2S)が付き、CO2を放出し、ヒドロキシエチルチアミンピロリン酸が出来ます。
C3H4O3+C12H19N4O7P2S→C2H4O~TPP+CO2

ヒドロキシエチルチアミンピロリン酸(C2H4O~TPP)からS-アセチルジヒドロリポイルリシンの生成には、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(E1)とリポアミド(C8H15NOS2)が必要になります。
E1を触媒として、ヒドロキシエチルチアミンピロリン酸(C2H4O~TPP)にリポアミド(C8H15NOS2)が付き、TPPが放出され、S-アセチルジヒドロリポイルリシン(C10H19NO2S2)が出来ます。
C2H4O~TPP + C8H15NOS2→C10H19NO2S2 + TPP
このときのリポアミドが、wikiではα-リポ酸(C8H14O2S2)となっていて混乱する人もいると思いますが注意してください。

S-アセチルジヒドロリポイルリシンからアセチルCaAの生成には、ジヒドロリポイルトランスアセチラーゼ(E2)とCoAが必要になります。
E2を触媒として、S-アセチルジヒドロリポイルリシン(C10H19NO2S2)にCoA(C21H36N7O16P3S)が付き、ジヒドロリポアミド(C8H17NOS2)が放出され、アセチルCaA(C31H55N8O18P3S3)が出来ます。
C10H19NO2S2+C21H36N7O16P3S→C31H55N8O18P3S3+C8H17NOS2

ジヒドロリポアミドからリポアミドの生成には、ジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ(E3)とFADが必要になります。
E3を触媒として、ジヒドロリポアミド(C8H17NOS2)がFADによる酸化反応を受けてリポアミド(C8H15NOS2)が出来ます。
C8H17NOS2+FAD→C8H15NOS2+FADH2

酸化反応により出来た還元型FADはNADの酸化反応を受けてまた酸化型FADに戻ります。
FADH2+NAD→FAD+NAD+H+

これでやっと、ピルビン酸からアセチルCoAが出来ました。
ここからクエン酸回路が回り始めます。
反応は以下になります。

アセチルCoA
クエン酸
シスアコニット酸
イソクエン酸
α-ケトグルタル酸
スクシニルCoA
コハク酸
フマル酸
リンゴ酸
オキサロ酢酸

アセチルCoAからクエン酸の生成にクエン酸シンターゼという酵素とオキサロ酢酸と水が必要になります。
クエン酸シンターゼを触媒として、アセチルCaA(C31H55N8O18P3S3)にオキサロ酢酸(C4H4O5)と水が付き、CoA(C21H36N7O16P3S)を放出してクエン酸(C6H8O7)が出来ます。
C31H55N8O18P3S3+C4H4O5+H2O→
C6H8O7+C21H36N7O16P3S

クエン酸からシスアコニット酸の生成には、アコニターゼという酵素が必要になります。
アコニターゼを触媒として、クエン酸(C6H8O7)から水が抜けてシスアコニット酸(C6H6O6)が出来ます。
C6H8O7→C6H6O6+H2O

シスアコニット酸からイソクエン酸の生成には、同じくアコニターゼと水が必要になります。
シスアコニット酸(C6H6O6)に水が付きイソクエン酸(C6H8O7)が出来ます。
分子式的にはクエン酸と同じになります。
C6H6O6+H2O→C6H8O7

イソクエン酸からα-ケトグルタル酸の生成には、イソクエン酸デヒドロゲナーゼという酵素とNADが必要になります。
α-ケトグルタル酸を触媒とし、イソクエン酸(C6H8O7)はNADの酸化反応を受けCO2を放出してα-ケトグルタル酸(C5H6O5)が出来ます。
C6H8O7+NAD→C5H6O5+CO2+NADH2

α-ケトグルタル酸からスクシニルCoAの生成には、オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体という酵素と、チアミンピロリン酸(TPP)、リポアミド、CoA、FAD、NADという補酵素が必要になります。
ピルビン酸からアセチルCoAと同じ反応になり、スクシニルCoA(C25H40N7O19P3S)とCO2とNADH2を放出します。
C5H6O5+C21H36N7O16P3S→C25H40N7O19P3S+CO2+H2

スクシニルCoAからコハク酸の生成には、スクシニルCoAシンターゼとGDPとリン酸が必要になります。
スクシニルCoA(C25H40N7O19P3S)にGDP(C10H15N5O11P2)とリン酸(H3PO4)が付き、CoA(C21H36N7O16P3S)とGTP(C10H16N5O14P3)を放出してコハク酸(C4H6O4)が出来ます。
C25H40N7O19P3S+C10H15N5O11P2+H3PO4→C4H6O4+C21H36N7O16P3S+C10H16N5O14P3

コハク酸からフマル酸の生成には、コハク酸デヒドロゲナーゼという酵素とFADが必要になります。コハク酸(C4H6O4)がFADによる酸化を受けてフマル酸(C4H4O4)が出来ます。
C4H6O4+FAD→C4H4O4+FADH2

フマル酸からリンゴ酸の生成には、フマラーゼという酵素と水が必要になります。
フマル酸(C4H4O4)に水が付加されリンゴ酸(C4H6O5)が出来ます。
C4H4O4+H2O→C4H6O5

リンゴ酸からオキサロ酢酸の生成には、リンゴ酸デヒドロゲナーゼという酵素とNADが必要になります。
リンゴ酸(C4H6O5)がNADによる酸化を受けてオキサロ酢酸(C4H4O5)が出来ます。
C4H6O5+NAD→C4H4O5+NADH+H+

以上がクエン酸回路の流れになります。
クエン酸回路の反応をまとめると、
アセチルCoA+CoA+3NAD+FAD+GDP+リン酸+2H2O→
2CO2+2CoA+3NADH+3H++FADH2+GTP
となります。

補足
クエン酸回路の維持
クエン酸回路の中間代謝物が減少すると、アセチルCoAが回路に入るために必要なオキサロ酢酸の濃度も低下し、回路が維持出来なくなります。
そのためピルビン酸からオキサロ酢酸を生成する経路があります。
ピルビン酸からオキサロ酢酸を生成するには、ピルビン酸カルボキシラーゼという酵素とATPとCO2が必要になります。
ピルビン酸カルボキシラーゼを触媒とし、ピルビン酸(C3H4O3)にATP(C10H16N5O13P3)とCO2が反応します。
このとき、ATPが加水分解され(ADPC10H15N5O10P2)とリン酸(H3PO4)が放出してオキサロ酢酸(C4H4O5)が出来ます。
C3H4O3+C10H16N5O13P3+CO2+H2O→C4H4O5+C10H15N5O10P2+H3PO4






2018/01/10

解糖系

解糖系は細胞質で1分子のグルコースから2分子のピルビン酸が生成される過程をいいます。
グルコースからピルビン酸への過程は以下になります。

グルコース
グルコース-6-リン酸
フルクトース-6-リン酸
フルクトース-1,6-ビスリン酸
グリセルアルデヒド-3-リン酸+ジヒドロキシアセトンリン酸
1-3-ビスホスホグリセリン酸
3-ホスホグリセリン酸
2-ホスホグリセリン酸
ホスホエノールピルビン酸
ピルビン酸

解糖系準備期

まず、グルコースからグルコース-6-リン酸の生成には、一般的にはヘキソキナーゼという酵素とMgatp2-(ATP4-とMg2+)が必要になります。
肝臓のグルコキナーゼ(ヘキソキナーゼⅣ)はグルコース濃度が高くなると触媒し始めます。
ATP(C10H16N5O13P3)が加水分解されADPとリン酸(H3PO4)が出来ます。
C10H16N5O13P3+H2O→C10H15N5O10P2+H3PO4
取れたリン酸がグルコースの6位の水素に結合し、グルコース-6-リン酸(C6H13O9P)が出来ます。
C6H12O6+H3PO4→C6H13O9P+H2O
このリン酸化が直ちに起こるのは、グルコースが細胞外に拡散してしまうのを防ぐためです。
リン酸化により電荷が導入されるので、グルコース-6-リン酸は容易に細胞膜を通過することができません。
細胞内のグルコース濃度は細胞外より低濃度に保たれてます。
これは細胞外へのグルコースの流出を防ぎ、細胞内への膜輸送を促進するためです。

グルコース-6-リン酸からフルクトース-6-リン酸の生成には、グルコース-6-リン酸イソメラーゼという酵素と、Mg2+が必要です。
グルコース-6-リン酸イソメラーゼは、グルコース-6-リン酸のαアノマー(α-D-グルコピラノース-6-リン酸)に優先的に結合し環を開けたあと、アルドースからケトースへと転換させます。
C6H13O9Pの分子式は変わりません。

フルクトース-6-リン酸からフルクトース1,6-ビスリン酸の生成には、ホスホフルクトキナーゼとMgatp2-(ATP4-とMg2+)が必要です。
ここでもATPからリン酸が加水分解され、フルクトース-6-リン酸の1位の水素に結合し、フルクトース-1,6-ビスリン酸(C6H14O12P2)が出来ます。
C6H13O9P+H3PO4→C6H14O12P2+H2O
フルクトース、マンノースなどのヘキソースはフルクトース-6-リン酸になることで解糖系
に入れるようになります。
解糖系のすべての基質がこの反応から合流します。

フルクトース-1,6-ビスリン酸は、アルドラーゼという酵素によって炭素の3番4番の結合が切れ、グリセルアルデヒド-3-リン酸とジヒドロキシアセトンリン酸に分かれます。
C6H14O12P2→C3H7O6P+C3H7O6P
分子式はどちらも同じです。

ジヒドロキシアセトンリン酸はそのままでは解糖系を進めないので、トリオースリン酸イソメラーゼという酵素によりグリセルアルデヒド-3-リン酸(C3H7O6P)に変えられます。
C3H7O6P→C3H7O6P

解糖系報酬期

グリセルアルデヒド-3-リン酸から1,3-ビスホスホグリセリン酸の生成には、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼという酵素とリン酸とNAD+が必要です。
グリセルアルデヒド-3-リン酸が酸化し水素が抜けNAD+がNADH+H+になり、リン酸が付き1,3-ビスホスホグリセリン酸(C3H8O10P2)が出来ます。
C3H7O6P+H3PO4→C3H8O10P2+2H

1,3-ビスホスホグリセリン酸から3-ホスホグリセリン酸の生成には、ホスホグリセリン酸キナーゼという酵素とADPとMg2+が必要になります。
1,3-ビスホスホグリセリン酸から加水分解によりリン酸が取れてADPに渡され、ADPがATPになります。
リン酸が取れた1,3-ビスホスホグリセリン酸は、3-ホスホグリセリン酸(C3H7O7P)となります。
C3H8O10P2−H3PO4+H2O→C3H7O7P

3-ホスホグリセリン酸から2-ホスホグリセリン酸の生成には、ホスホグリセリン酸ムターゼ
という酵素とMg2+が必要になります。
3番目の炭素に付いていたリン酸を2番目の炭素に移動して2-ホスホグリセリン酸(C3H7O7P)が出来ます。
動物の場合、触媒反応を開始するためには中間体の2,3-ビスホスホグリセリン酸が常に少量細胞内に蓄えられていなくてはなりません。
C3H7O7P→C3H7O7P

2-ホスホグリセリン酸からホスホエノールピルビン酸の生成には、エノラーゼ(ホスホピルビン酸ヒドラターゼ)という酵素と、2つのMg2+が必要になります。
ホスホピルビン酸ヒドラターゼにより、炭素の2番目からHと3番目からOHを引き抜き脱水し、ホスホエノールピルビン酸(C3H5O6P)が出来ます。
C3H7O7P−H2O→C3H5O6P

ホスホエノールピルビン酸からピルビン酸の生成には、ピルビン酸キナーゼという酵素とADP、そして、K+、Mg2+かMn2+が必要になります。
ホスホエノールピルビン酸が加水分解されリン酸が取れてADPがATPになります。
ホスホエノールピルビン酸はリン酸が取れてピルビン酸(C3H4O3)になります。
C3H5O6P+H2O→C3H4O3+H3PO4

解糖系においては、2ATPを使い4ATPを回収します。
以上が、解糖系になります。