2018/02/01

ATP合成酵素とATP生成量

ATP合成酵素はミトコンドリア内膜に埋め込まれたローター部分(Fo)と、bサブユニットに固定されマトリックスに突出したATP合成部分(F1)からなります。
ローターの脇にaサブユニットがあり、ここから濃度勾配を利用してH+が流入します。
その勢いでローターが回転し、ATP合成部位は変形を繰り返しATPが生成されます。

まず、ローターは8〜14個のcサブユニットという円筒形のタンパク質が束ねられて出来ています。
cサブユニットの中央付近にあるアスパラギン酸側鎖に膜間腔から、aサブユニットのアルギニン側鎖を通じてH+が結合し、アスパラギン酸は-荷電を失い中性になります。
その時、このcサブユニットの後方のcサブユニットはまだH+を結合しているのですが、H+を受け取る位置に近付くと持っていたH+を解離し、遊離したH+はマトリックスに放出されます。
H+を解離したcサブユニットは改めてaサブユニットからH+を受け取り中性となり、脂質層側に回転します。
これを、cサブユニットの数だけ繰り返すことで1回転します。
cサブユニットの数は、人は8個と推定されていて、ローター1回転で3分子のATPが生成されます。
また、ローター部位と合成部位は普段はそれぞれ逆方向に回転をしています。
H+の濃度勾配がスイッチとなり、ローターによって強制的に普段とは逆回転にされることでATPが生成されます。
その分、濃度勾配が少ないときは合成部位はATPをADPとPiにし、H+を膜間腔に能動輸送しています。

ATP合成部位では、軸の回転によるタンパク質の変形を利用してATPが生成されます。
まず、ATP合成部位の触媒部位が開いてADPとPiが入り、軸の回転によりタンパク質が変形してADPとPiが閉じ込められます。
そして、タンパク質がさらに変形してコンパクトになり脱水結合してATPが生成され、その後、タンパク質の形が戻りATPがマトリックスに放出されます。
そして、ATPは細胞質へと輸送されて行きます。

1分子のグルコースから生成されるATP量は器官によって変わって来ます。
解糖系で生成されたNADHは、
グリセロールリン酸シャトル
(脳、筋肉)
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル
(心筋、肝臓、腎蔵)
によって電子伝達系に入ります。
酸化されたNADは解糖系に補充されます。
また、ATPを作る上での原料をミトコンドリア内に取り込む時や、生成されたATP細胞質へ輸送すると時にもH+が使われます。
まず、グリセロールリン酸シャトル系では、
細胞質の基質で出来るATPは2ATP。 
ミトコンドリア内の基質で出来るATPは2ATP。
グリセロールリン酸シャトル系で生じる濃度勾配は144H。
取り込み時に-2H。
ピルビン酸取り込み時に-2H。
ATP輸送1分子に対し-2Hなので-2X
ローターにおいて8Hの流入で3ATPの生成。
よって、ミトコンドリア内で生成されるATPをXとすると、
X={(144−2−2−2X)/8}×3+2
X=31.1
31.1+2(細胞質基質分)=33.1なので33ATP。

これがリンゴ酸-アスパラギン酸シャトルだと、
細胞質の基質で出来るATPは2ATP。
ミトコンドリア内の基質で出来るATPは2ATP。
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルで生じる濃度勾配は162H。
取り込み時に-4H。
ピルビン酸取り込み時に-2H。
ATP輸送1分子に対し-2Hなので-2X
ローターにおいて8Hの流入で3ATPの生成。
よって、
X={(162−4−2−2X)/8}×3+2
X=34.6
34.6+2=36.6なので36ATPとなります。

教科書によってこのATPの数が違うのは、取り込みや輸送の際の消費H+量の考え方の違いによるものです。

ちなみに海外の生化学参考書では、
NADHから2.5ATP
FADH2から1.5ATP
解糖系のグリセロールリン酸シャトルにおいては
NADHから1.5ATP
という計算により、
グリセロールリン酸シャトル系は30ATP
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル系は32ATP
となっています。
だいぶ違いがありますね。

私も生理学では、1分子のグルコースから生成されるのは38ATPと習いましたが、さすが生化学となるともっと奥が深くなるようです。
とりあえず、一般的には

グリセロールリン酸シャトル系は30ATP
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル系は32ATP

で覚えておいた方が良いかと思いますが、個人的にはNADHが何ATPという計算方法ではなく、H+の濃度勾配から計算する、

グリセロールリン酸シャトル系は33ATP
リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル系は36ATP

の方が好きだったりします。







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